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モデルと経済予測

夕立の兆し

・子供の頃夏に泳いで家に帰るとき、天気が晴れていても、夕立の来る感じが何となくわかったものだ。おそらく草いきれなどのにおいが急に強くなったからだろう。

 

・今アメリカの株価などは絶好調のように見える。しかしこれはいつまで続くだろうか。何とはなしに、夕立の前触れの草いきれを感じるのは、筆者だけだろうか。

 

・経済予測の場合、将来予測にモデルを使うことが多い。しかしたいていは当たらないので、皆に馬鹿にされるのがオチだ。

 

・しかしよく考えてみると、これはモデルの使い方に問題があるのかもしれない。

 

・今から約30年前に日本もバブルという好景気の時期があった。それは1989年に株価の大幅下落(1989年12月)で幕を閉じたことはよく知られている。

 

・その一年前に、筆者はモデルを用いて89年の景気予測を行っている(参考文献参照)。

・当時すべての識者の89年経済成長率予測は4%を超えていた(同)。これに対し当方のモデル予測は,条件付きで1.5%という値を示した。当方の論文のタイトルが、「円急騰の公算大きく1.5%成長へ」だったのは,当然ともいえる。

 

・そのときの株価予測値は図に示したとおりである。つまりある状況のもとで89年に株価が大幅下落する可能性の高いことを示している。

 

・ここで問題なのは,当方のモデルは円高と原油価格の上昇を前提条件として入れていたことだ。この二つの前提条件はその後,何年か経って実現したが、89年にそのまま実現した訳ではない。つまりこの予測は,将来を先取りしていたといえる。

 

・モデルは確かに将来のことを、水晶玉のように予測することはできない。しかしどのような条件が満たされれば、(株価崩落といった)情景が出現するかをある程度描き出すことができる。これが89年モデル予測の教訓だろう。

 

・アメリカの金融学者ジェンセンは、株価は将来を予測するのだから、株式市場に余計な干渉を加えることは有害だと述べた。上の議論との関連で言えば、、株式市場は何年後かの円高と原油価格上昇を予見し、それが89年の崩壊につながった可能性がある。もしそうだとすれば,モデル予測がその条件を組み込んだから、株価の下落を計算できたことになる。

 

・幸運にも、筆者はバブル崩壊を,ある意味で”予測”したため、やや過大な評価をいただいたが、この経験はモデルをどのように使うべきかという点で、いろいろ考えさせられることが多かった。

 

・話は変わるが,2017年半ばに公表予定のソフトは,この問題に筆者なりの解答を組み込んだつもりである。つまりそれは、誰にもモデル予測ができて、しかもモデルの持つ条件付きの将来計算を、それぞれの人の予測観に直接反映させることができることを目指している。

 

(参考文献)

・週刊東洋経済、臨時増刊、「'89 日本の景気」,1988年12月16日号