アップルとクアルコムの戦い
2017.05.06
・4月30日付けのファイナンシャル・タイムズ紙によると、アップルがクアルコムに対して正面から戦いを挑んだようだ。アップルはこれまでもサムスン、ノキアなどと法廷闘争を繰り広げてきたが,今回はそれとは内容と規模が異なるという。
・クアルコムはケータイ電話の中心技術(CDMA)を抑えており、これのロイヤリティで食っている会社である。アップルのiPhoneにもこの技術を用いたチップが使われている。実際クアルコムの利益をみると、ロイヤリティが大部分を占め、自身のチップ販売による利益はこれを遙かに下回っている。アップルのこの挑戦により、クアルコムは売上げ減少の警告を発したという。
・アップルによると、クアルコムの要求するロイヤリティは、その独占的地位を反映して、高すぎるという。たしかに、クアルコムはしたたかな商売をしており、インテルやメディアテックなどライバルチップメーカーにはライセンス供与を行わず、その製品の総費用に一定割合を乗じた金額を受け取っているそうだ。
・しかし独占的利益と言えば、アップルも人のことはあまり非難できない。英国の学者の分析によると、アップルのIphoneの収益構造は、売価630ドルに対し、生産費用(チップ、メモリー、その他の部品、組み立て委託費用などを含む)178ドルであり、粗利益は452ドルに達するという。つまり粗利益率72%を誇っている。
・今回の対クアルコム戦は、アップルもそろそろ次のヒットが見つけにくくなっていることの現れかもしれない。いずれにせよ、IT時代においては、ユニークな商品を売り出し、それが消費者に圧倒的な支持を得られれば、メーカーにはとてつもない利益が流れ込むことになる。またその商品に不可欠なチップを売るメーカーもおいしい目にあうことになる。
・今回のアップル・クアルコム戦は、実は、自動運転を巡る覇権の前哨戦とみることもできる。自動運転は、グーグル、アップル、テスラなど有力IT企業が参入中だが、一番儲かるのは、市場を抑えたメーカーと、それに対して自動運転のチップを供給するチップメーカーだ。クアルコムもインテルもこの戦いにチップメーカーとして参入している。
・自動運転に関しては、日本のメーカーは燃料電池などで寄り道をしていたため、いまいち精細を欠くが、何年か経つとケータイと同じくアメリカのメーカーに完全にやられてしまう可能性が高くなっている。さらにチップに関しても、日本メーカの影は薄く、アメリカのチップメーカーの言うなりになるしかないのかもしれない。残念ながら、あまり明るい展望は開けない。
(参考文献)
Fildes n.,"What is at stake in the Apple-Qualcomm dispute",FT April 30,2017
Froud J.,Sukhdev J.,Leaver A.,Williams K.,"Apple Business Model:financialization across the Pacific",CRESC Working Paper 111,Apr.2012
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