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自動運転とベイズ統計

自動運転とベイズ統計

  2017.05.13

・最近自動運転車の開発が日本でも盛んになりつつある。

 

・自動運転の基本モデルはベイズ統計に基づいている。したがってベイズ統計やベイズ・フィルタに関する興味が技術者の間でも高まっている。

 

・最近新聞の書評で、わかりやすいベイズ統計の入門書が日本語で出たとあり、早速取り寄せて読んでみた。この本は、著者のいろいろな工夫は理解できるが、結果的には、あまり参考にはならなかった。その理由は、途中から言葉による説明から、数学的説明に頼ったことによる。たとえば、カイ二乗検定がでてきたり、また統計ソフトの検定結果表などが、詳しい説明なしに、出てくるからだ。読者が知りたいのは、ベイズ統計の何が現代の自動運転を含むロボット化の基礎理論として役立つかだろう。残念ながら、この本はそういう、応用エンジニア相手にはあまり向かないようだ。

 

・そこで思い立ってスランの書いた教科書(確率ロボット論)に舞い戻ってみた。スランは現在グーグルで自動運転車の開発の中心人物であり、もともとスタンフォード大学でロボティクスを教えていた人物である。ドイツ出身で、展覧会の案内ロボットの開発から出発し、DARPAの無人運転車レースには、スタンフォードのチームを率いて優秀な成績を上げた、学問と実際の双方に強い豪腕の主だ。

 

・彼の本の最初の数章は、ロボティックスをいかに論理化するかという点に関して、わかりやすい記述にあふれている。そこにあった図を参考にして描いて見たのが下図だ。

 

・自動運転をうまく行うためには、外部環境から情報を取り入れ(図では①「道路環境」:これはgpsなどから情報を入手、②「現場からのデータ」:センサーなどから情報を入手)、それに応じて最適な行動(ハンドルを回す、動力を調整する、ブレーキをかけるなど)を取り(図では「実際の運転」)を行っていく。問題は、外部環境は絶えず変わり(道路は曲がり、人も出てくる)、運転の結果が現実の道路に影響を及ぼし(「実際の運転」)、それを絶えずセンサーなどからの情報(雑音にあふれる)で修正しながら、運転を続けていくことが必要になる。この状態の推移を表すのにベイズフィルタを用いるわけだ。

 

・スランは実際に自動運転車の開発に当たっているため、教科書も実践的でわかりやすい。統計学の入門書を読むより、スランの教科書の導入部分を熟読することが、この分野で腕をあげる近道ではないだろうか。

 

(参考文献)

Thrun S.,Burgard W. and Fox D.,Probabilistic Robotics,MIT Press,2005