真山仁氏の「オペレーションZ」を読む
本書は、日本が直面する、”財政危機”の問題を正面からとらえた力作である。筆者はこの本の主張に必ずしも賛成しないが、一読の価値があると思う。
こうした本を読むと、小説家に比べ、エコノミストの構想力の貧しさには情けない思いがする。これは嘆かわしいことだが、エコノミストは経済学の難しい式が頭にいっぱいで、日本の将来にまで気が回らないのだろう。ちょうど難しいクラシック音楽を勉強した人が、そのルールにこだわるあまり、人を喜ばせる音楽を作れないのと同じことだ。
真山氏の本のはじめに、経済学者サムエルソンの言葉として、日本とアルゼンチンが経済学者の常識では理解できない国として出てくる。今回の場合で言えば、政府債務が名目GDPを遙かに上回り、しかも政治家も官僚もそれを止めようしない。そして国民への迎合策(財政支出の拡大)に走っている状況は、海外から見るとやや異常としかいえないだろう。
本の内容にあまり触れるとネタバレになるので、なるべくそれは避けるが、まず一番面白かったのは、財政破綻した夕張市の現状ルポだった。これは、かなりきちんと現地調査をした結果だと思われる。
かってこのブログでも夕張出身の佐々木譲氏の小説「カウントダウン」を取り上げたことがあるが、夕張に起こっていることは、もうすぐ日本全体にも及ぶ問題だ。真山氏は、破綻後の新市長の登場とその後の経過を作家の目で厳しく追っている。こうした綿密な調査が小説の厚みを増している。
日本の財政破綻に話を戻せば、ここまで来たら、取り得る手段は財政支出を減らしていくしかない。もう少し詳しく言えば、同時に税金も減らし、経済活動における政府の役割を削っていくことだ。これまで、金融危機などが生じる度に財政支出は拡大し、危機が落ち着いた後も、減ることはなかった。こうして経済活動における政府の役割は拡大する一方だったが、これを反対方向に向けることが必要だ。ひとつの可能性は、ソーシアル・キャピタルの活用だ。
財務省は、省益として、財政の役割が増えることを大前提とするから、こうした路線は取れない。また政治家も成長期の分け前配分に慣れ親しんできたから、パイを少なくすることなど頭にない。こうして増税路線のみが、他のオプションをきちんと検証することもなく、なし崩し的に進んでいく。海外からみれば、なんと不思議なことだろう。すこし極端なことをいえば、第二次大戦に突き進む日本も同じようなプロセスをたどってきたのかもしれない。
シンガポール在住の投資家ジム・ロジャーズが指摘するように、このままでは、日本の子供に明るい未来は開けない。しかしそうだとしたら、政治家や官僚など日本の将来に責任を持つ人たちは、どうやって子供達に申し開きをすればよいのだろうか。
(参考)
真山仁、「オペレーションZ」,新潮社、2017年
パトナム R.,「哲学する民主主義---伝統と改革の市民構造」、河田潤一訳、NTT出版、2001, Making Democracy Work: Civic Traditons in Modern Italy,Princeton Univ. Press,1993
ジム・ロジャーズ、「これが日本経済『未来の年表』」、週刊現代、2017年12月16日号