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選択アーキテクトの必要性

選択アーキテクトの必要性

 2018.02.03

 選択アーキテクト(choice architect)とは聞き慣れない言葉だろう。これはセイラーとサンスタインの本「ナッジ(Nudge)」に出てくる言葉だ。その役割は、人々が意思決定する際に、選択可能なオプションを体系化して整理することにある(邦訳、13ページ)。ちなみにこの本の著者の一人、セイラーは2017年にノーベル経済学賞を受賞した。

 

 しかし筆者の個人的印象からすれば、共著者のサンスタインの方が、頭が切れそうだ。サンスタインの著作、「なぜ社会は異論を必要とするか」を読むと、多様な議論をしなかったために失敗したケネディ政権のキューバ侵攻などが、生き生きと描かれている。

 

 前回のブログ(”バブルの終わり?”)では、アメリカの金融危機が、専門家の間では発生が予知されていたにもかかわらず、実際には適切な対策が打たれてこなかったことを見てきた。

 

 つまり必要な情報はあったが、それが意思決定にうまく生かされてこなかったことが金融危機を招いたともいえる。それはなぜだろうか。この点を理解するには、人々の意思決定システムに固有のバイアス(偏り)があることに注目する必要がある。

 

 シンクタンクのマッキンゼー・インスティテュートは、これを”現状維持バイアス”とよんでいる。つまり意思決定の際に、現状にこだわり、新たな情報があるにもかかわらず、それを利用して意思決定の改善につなげないことだ。

 

 こうした事態は、アメリカだけでなく、日本でも観察される。第二次大戦のときに、陸海軍がアメリカの出方を冷静に読めず、一方的な判断で戦争に突入したのがその例だろう。

 

 これを防ぐのが、最初に述べた選択アーキテクト(choice architect)だ。意思決定に際し、きちんと選択可能なオプションを提示し、現状や多数説にこだわらず、冷静な判断をできるような情報を提供するのが、その仕事である。

 

 たとえば日本経済の将来を考えてみよう。いくつかの問題が頭に浮かんでくる。

 

(1)消費税増税は、財政危機を防ぐのに役立つか。また財政改善のために何パーセントの増税が必要か。財政支出の削減というオプションを考えなくてもよいのか。

(2)**県の経済は、このまま公共支出と地方交付金頼みで生きていけるのか。

(3)地球温暖化問題で、日本はどのような寄与を世界にしていけば良いのか。その場合にマクロ経済や産業構造はどのようになるのか。 

 

 こうした課題に対する冷静な情報を、マクロモデルや産業連関表を用いて提供しようとするのがe予測である。いわば選択アーキテクトのソフト版といってもよい。

 

 このソフトはモデルやエコノメの知識がなくても、問題意識さえあれば、だれでも使えるようになっている。しかも今のITパワーを利用しているので、瞬時に解が求められる。近々無料のお試し版をリリースする(e予測:JP)ので、興味ある方は試していただきたい。 

 

(参考)

・Thaler R.and Sunstein C.,Nudge,Penguin Books,2008

(邦訳)実践行動経済学、遠藤真美訳、日経BP、2009

・Sunstein C.,Why Societies Need Dissent,Harvard Univ.Press,2003

・Hoffman N.,Huber M.,Smith M.,An Analytics approach to debiasing 

Asset-management decisions,McKinsey&Company,Dec.2017