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IT革新と政府の役割?

IT革新と政府の役割?

  2018.05.19

 日本の場合、IT革新というと、すぐに官民協力体制などと言って、政府主導の計画が新聞を賑わす。たとえば総務省がぶち上げたスマート・ジャパンICT戦略などがその典型だ(2014年)。

 

 しかしよく考えてみると、政府のあり方とIT革新がもたらす破壊的技術とは、基本的に相容れない。この点を明らかにしたのがギャビン・ニューサムの「未来政府」だ。彼は現在カリフォルニア州の副知事だが、それ以前はサンフランシスコ市長を務めていた(2003年から2010年)。IT革新の中心地であるカリフォルニアで行政府のリーダーを勤めているだけに、その主張には説得性がある。

 

 彼が言うに、役所はテクノフォビア(technophobia、技術恐怖症)であり、新たな技術に抵抗するのは、政府にとって”デフォルト”の反応」だそうだ(未来政府、p24)。「官僚機構は最善のケースでも適応が遅い、最悪のケースでは、変化に公然と敵意を見せる」(同書p25)。

 

 日本で、こうした役所がICT戦略の音頭取りをするというのは、よく考えるとおかしいが、それなりの理由がある。つまり新しい課題は、彼らにとって予算ぶんどりのよい手段になる。したがってそこで行われた戦略がうまくいかなくても、予算さえつけば、それは旗を振った官僚の手柄となり、それでよしとなる。

 

 さきほどのカリフォルニア州副知事のギャビンがこうした政府のあり方を改善するための5つの方針を示している(同書、P16)。

 1)政府の透明性を保つ。そのために政府が保有するデータを、公共の安全や個人のプライバシーを脅かさない限り公開する。

 2)人々がこうしたデータを活用するための、アプリやデバイスを工夫するようにする。

 3)人々が、望むやり方で政治参加する。

 4)人々が政府を通さず事を運ぶことを認める。

 5)より創造的・起業家的な思考を政府に植え付ける。

 

 こうした提言は著者が実際の行政府のリーダーであるだけに迫力がある。つまり政治家がICT革新などとぶち上げて、それに乗った行政府が予算取りのために、適当な計画を作り上げ、それに予算をつけただけでは、IT革新の波には乗りきれない。

 

 この意味で、面白い実験をしているのはエストニア政府だ。このケースは有名になったから、詳しく立ち入らないが、彼らの成功のポイントはシステム構築に際してX-Roadというデータ交換層をまず作り、これに各関係機関のセキュリティ・サーバーを接続したところにある。

 

 X-Roadを作り上げたのが、スカイプ・マフィアといわれる、エストニアの若者たちだ。いまでこそスカイプは、マイクロソフトの傘下にあるが、元々はエストニアで開発されたものだ。この技術の売却資金を利用して、エストニアの若者達はさらに新たなIT企業を起業し続けている。大事なのは、IT革新の良循環(新しい技術を実用化→それを売却→莫大な資金を入手→それを元に新たな起業を設立)がこの場合にも働いていることだ。ちょうどテスラのマスクがペイパルを売って資金を作り、それを元にしてロケット(ファルコン・ヘビー)やEV(電気自動車)を開発したのと同じパターンだ。

 

 こうした若者達がいないと、IT革新はうまく回らない。残念ながら、この点の理解が日本の政治家や役所には決定的に欠けている。大事なのは、お役所寄りの”学識経験者”などではなく、最新のIT技術の波でサーフィンする若者達なのだ。

 

 この意味で、日本の官庁主導型技術革新は、IT時代にはうまく合っていない。少し前のことだが、NHKはアナログ技術にこだわりハイビジョンをアナログ型で開発した(いわゆるアナログ・ハイビジョン、1991年にBSで放送開始)、これはデジタル化の進行と共にまったく時代遅れとなり、2011年に終了した。

 

 また1980年代に通産省は、第五世代コンピュータという概念を掲げ、IBMを抜き去ることを試みたが、これもコンピュータの発達過程を読み誤ったために(インテルのcpuとマイクロソフトのosをのせたPCが主流となった)、残念ながら失敗に終わった。

 

 まずこうした失敗例を直視し、その原因と、それから学べる教訓を生かさないと、日本はますますIT世界から取り残されるだろう。

 

 

(参考)

・ギャビン・ニューサム、「未来政府」、稲継裕昭監訳、町田敦夫訳、東洋経済、2016年 Gavin Newsom,Citizenville,Penguin Books,2014

・ラウル・アリキヴィ、前田陽二、「未来国家 エストニアの挑戦」、インプレスR&D,2017年

・総務省、「スマート・ジャパンICT戦略」、総務省、2014年6月

・日経新聞、「クールジャパンは大失敗!戦略なき膨張 投資ありきの危うさ」、2017年11月6日

・室田泰弘、「YouTubeはなぜ成功したのか」、東洋経済、2007年