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ハイパーループ実用化の一歩へ

ハイパーループ実用化の一歩へ

 2018.06.17

・マスクの高速公共輸送システムが、実用化に向けて新たな一歩を踏み出した。彼のハイパーループ開発会社であるBoring Company(2016年末設立。本社はHawthorne,CA)は、シカゴ・インフラ整備信託(Chicago Infrastructure Trust)と、シカゴのオヘア空港から市の中心部に至る高速交通システムの設計・金融・運営・維持に関する契約を結んだ(シカゴ・エキスプレス・ループ、走行距離約29キロ)。

 

 このシステムは、高速地下輸送システムで、空港から都心への所要時間は従来の40分から12分に短縮されるという。”電動スケート”(electric skates)に8から16人の旅客を乗せ、時速160キロ以上で走行する。

 

 マスクはこのシステムの長所を次のように述べている。

 

・都市部の交通渋滞を考えれば空に行くか地下に潜るしかない。空は天候、騒音などを巻き起こし、空路の下に住む住人の不安を掻き立てる。これに対して地下は、天候も心配ないし、地上の住民に損害も与えない。また道路のように地上のコミュニティを分断したりしない。また地震にも強い。

 

・従来トンネルの採掘費用は極めて高いと思われてきた。1マイルあたり10億ドルにも達することがあった。これを変えないと地下の利用は進まない。

 

・マスクは採掘コストを大幅削減を工夫した。第一にトンネルの直径を半分にする(従来の約8メートルから4メートルに)、第二に新しいトンネル採掘マシンを考案した(ゴドーと名付けられたTBM:tunnel boring machine)。従来の採掘マシンはカタツムリより採掘スピードが遅い。これをカタツムリ並みのスピードにする。このためマシンの出力を3倍にし、また自動化をすすめることで作業の連続化を可能にした(これまでは採掘部分の支持構造の作成に半分の時間を割いていた)。コストはトンネル直径を半分にしたため約1/3から1/4に低下する。マスクの言い分によると、土木業界は50年前の技術水準にしがみついているだけという。

 

・これまでこうしたマスクの議論は机上の空論と思われてきた。しかし彼はまずスペースXの基地があるHawthorne(Boring Companyの本社所在地)で、実験抗を掘った(幅9メートル、長さ15メートル、深さ5メートル、Wikipediaによる)。その上で彼はニューヨークとワシントンを結ぶ交通路を提案したが、シカゴがまずこの構想に乗ったことになる。

 

・アメリカでは、新たな公共交通機関が、IT革新の波を受けて誕生し始めている。それにつけても思うのは、日本のリニア新幹線構想だ。最初はJR東海が自己負担で開発する予定が、いつの間にか政府の援助を受けるようになった(2016年8月の閣議決定、「21世紀のインフラ整備」)。どうも2020年のオリンピックの後の大規模公共投資の対象とされたらしい。しかし公共債務の積み上がりは大きく日本にそんな財政的余裕はない。またリニア新幹線がどれだけ人々の生活に利便性をもたらすかははっきりしない。

 

・リニア新幹線は、マスクの構想と異なり、重厚長大型の古い技術だ。安倍首相が、「ワシントンからニューヨークへはたった1時間でいける」とトランプ大統領にアッピールしても(2017年2月の日米首脳会談)、アメリカにはハイパーループがあり、世界中がその新技術に注目している。日本もIT力を生かした形で、新たな公共交通網の整備に取り組まないと世界から、置いてけぼりを食らうだろう。

 

(参考)

・Bradshaw T.,"Elon Musk wins contract to build hi-speed Chicago rail link",FT

    June 14,2018

・Boring Campanyのhp:www.boringcompany.com

・ファクタ、「リニア摘発は『反葛西』の乱」、2018年2月号