ジャクソンホール・シンポジウムとアマゾン効果
2018.09.02
2018年8月23日から25日にかけて、カンザスシティ連銀の主催によるジャクソンホール・シンポジウムが、例年通り開催された。この会議には各国中央銀行関係者が出席するので、金融政策の行方を占う上でも注目度が高い。今年のテーマは「市場構造の変化と金融政策への含意」だった。そこで発表されたハーバード・ビジネス・スクールのカバロ教授の「アマゾン効果の浸透」なるペーパーが話題を呼んでいる。
このペーパーの主要なファインディングスは以下の通り。
・アマゾンによる直販が進むにつれ、市場における価格変更の頻度は高まった。これは特に家具やエレクトロニクスなどで著しい。たとえば2008年から2010年にかけて家具の価格更新に要する期間は14.2ヶ月だったが、これが2014年から2017年に掛けては5.9ヶ月に短縮された。同様にエレクトロニクスでも13.1ヶ月が5.5ヶ月に短縮されている。
言い換えれば、この頻度で価格更新ができないような業者は市場から退出を迫られるということだ。
・もう一つのファイディングスは、全米で価格均等化が進んだことだ。これにより、地方に住んでいても、不利な高い価格を払う必要がなくなる。
この2番目の結論は、自身の経験に照らし合わせても、納得的だ。筆者は、この夏、炎暑を避けて、長野県の北端に移動した。驚いたのは、そこでもアマゾン・プライムが使えることだった。たとえば遊びに来た子供(成人)が急におなかを壊して、いつも使っている漢方薬が必要になった。これがアマゾン・プライムで1-2日で、長野の田舎に届いたのには、驚いた。
調子に乗って、簡単な水泳用具を頼んだら、これもあっという間に届いた。しかも値段は安い。従来なら長野市周辺のショッピングセンターまで行って、いくつかの店を回って商品を見つけ出すところだ。逆に言えば、地方のショッピング・センターなどにとっては、実に厳しい時代が訪れたとも言える。従来なら、大都会より若干高い値段をつけ、かつ商品の受け取りまで時間がかかっても、だれも文句は言わなかった。ところがアマゾンのサービスを利用すれば、自宅でオンラインで注文できる。そして商品は、宅急便で、あっという間に田舎の自宅まで届く。しかもその値段は大都市並みとなる。
本の場合も同じで、欲しい本をアマゾンで注文すれば、すぐに手に入る。これには古本も含まれるので、実に便利だ。長野県でも、地場の大きな本屋が苦戦しているようだが、何となくその事情がわかる気がした。
IT革新は、地域経済にも確実に影響を及ぼし、その姿をあっという間に変えてしまう。これはグローバル化による製造業の空洞化より、深刻かもしれない。県経済は、ともすれば中央官庁や国の動向を見がちだが、今必要なのは、IT革新による世界経済の急激な変化を見据えることだろう。
(参考)
・Cavalllo A.,"More Amazon Effects: Online Competition and Pricing Behaviors"
Prepared for Jackson Hole Symposium,2018 August.