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ミレニアム4とピーター・ティール

ミレニアム4とピーター・ティール

  2018.09.22

 ・ミレニアム1-3は読まれた方も多いだろう。スウェーデン発のミステリーで頭の固い雑誌編集者ミカエルと天才ハッカーの女性リスベットの活躍はとても面白かった。

 

 ・残念なことに著者のスティーグ・ラーソンが急死したため、このシリーズもこれで終わりかと思っていた。ちなみに、このシリーズは映画化されており、そのいくつかはアマゾン・プライムで見ることができる。ハリウッド版とスウェーデン版を比べると、なかなか面白い。

 

 ・そうしたらこのシリーズを別の著者(ダヴィド・ラーゲンクランツ)が書き継いで、ミレニアム4が刊行された(ミレニアム5も邦訳が出ているが、未読)。

 

 ・半信半疑で読み進めたところ、これが確かに面白い。ミレニアム5も文庫版になったら、是非読みたいと思っている。

 

 ・この作中に、ソリファン社というIT企業が出てくる(架空の存在:上巻、p126、)、ニコラス・グラントが率いるこの会社のモットーは、「寛容、才能、緊密性」であるという。その意味は、まず”才能”のある人(天才)を集める、すると天才は天才を呼ぶので、別な天才を会社に引きつけることができる。天才はだいたい変わった人間が多い。それとうまくつきあっていくことが必要で、これが”寛容”の意味するところだという。さらにこうした天才同士の知恵のぶつかり合いを生み出すためには、いつでもお互いにアポなしに、すぐに会って議論ができることが必要だ。これが緊密性の意味するところだという。しかもこの会社は絶えず有能な人が来ては、止めていくという。

 

 ・作者は、この3つ(寛容、才能、緊密性)が、企業がクリエイティブであるための条件だという。これを見てニヤッとした人は多いのではないか。まさに日本企業のあり方と対照的だからだ。この本の言葉を借りれば、「偏見に満ちた(筆者注:寛容性のない)、同じような人ばかりの組織は、何も生み出せない」(同書、p127)ことになる。今の日本企業を見ているような感じがする。

 

 ・人事選考で、良い大学出の物わかりの良い秀才ばかり集めていると、IT革新の波に乗ることはできない。少し前に、東芝でフラッシュメモリを開発したが、冷遇されて東北大学に移った舛岡富士雄教授のことをテレビでやっていたが、そこでも異分子は排除するという日本企業の特色がよく出ていた。

 

 ・「ソリファン社のニコラス・グラントは所詮小説の人物ではないか」、といわれるかもしれないが、ペイパル・マフィアのリーダーであるピーター・ティールの本「Zero to One」を読めば、上の例が、単に小説のフィクションではなく、IT企業の典型例であることがわかる。

 

 ・ピーター・ティールだけではない。テスラのイーロン・マスクもまったく同じだ。スペースーXなどが、驚くべき業績を上げているのは、仕事が面白いから、世界中から有能な連中が集まるからだ。日本の悲劇は、こうした型にはまらない”天才肌”の異才を受け入れられなかったことにある。ちなみに舛岡教授の開発したフラッシュメモリはインテルやサムスンがその可能性に気づき、彼らの大きな利益源となった。

 

(参考)

・ミレニアム4(上)、ハヤカワミステリー文庫、2017.10

・ピーター・ティール、「Zero to One」、滝本哲史序文、関美和訳、NHK出版、2014