ゴーン氏の逮捕に関して
2018.12.01
・最近のニュースで日産の経営者ゴーン氏の逮捕ほど驚いたことはない。すぐに思ったのは、何があったかしれないが、危機の日産を救った人物をこうした形で地に貶めてよいのかということだ。1990年代にバブルの崩壊による需要低迷と組合問題で危機に陥った日産を救うためにゴーン氏が登場した。その業績には毀誉褒貶があるかもしれないが、いずれにせよ当時の日産の硬直した日本人経営陣ではこうした危機を乗り越えられなかったことはたしかだ(筆者の経験からしても,日産に就職したのは都会好きなスマートボーイが多かった)。
・こうしたモヤモヤ感をもっていたら、ウォールストリート・ジャーナル紙が社説でこの問題を取り上げていた。「(ゴーン氏は)起訴されずに何日も拘留され,弁護士の同席なしに検察官の尋問を受けている」。同紙は「(これは)共産党が支配する中国の話だろうか。いや資本主義の日本で起きたことだ」とまで述べている。
・これに対して日産CEOの西川氏は、あたかも第三者のようにゴーン氏を断罪している。しかし不思議なのは、これほどまでの金銭的問題が社内に存在するなら、なぜ監査法人も最高財務責任者もそれに気づかなかったのかということだ。むしろその方が不思議に思える。おそらくこれは株主訴訟の原因となり、日産は難しい局面にたたされよう。
・またWSJ紙も指摘するように、検察当局は東芝やオリンパスの容疑者にたいしてはこうした扱いをしていない。ここにも”意味不明の”恣意性が認められる。今回の事件は、おそらく日産とルノーとのリーダーシップ争いが背景にあるのだろうが、それにしても日産側の対応は拙劣といわざるをえない。WSJの言葉を借りれば、「日産による奇襲攻撃は、日本経済の汚点として残る」。
・この事件をみて思い出すのは、2つのことだ。
・第一は、P2P技術の最先端だったWinnyの開発者金子勇氏の逮捕劇だ。彼は東大助手だった34歳のときに京都府警に逮捕され(このソフトはファイル共有技術の最先端だったため、映画や音楽などの商用データが世界に拡散した)、7年後に無罪が確定したが、その2年後に急逝した。この逮捕がなければ、日本でもP2P技術が独自に発達し、ITの一潮流を築けたかもしれない。問題はだれがこうした判断を行ったかだ。おそらくIT革新の大きな流れをまったくわからない官僚の思い込みによる逮捕劇(一罰百戒)だったのではないだろうか。今回のゴーン逮捕も世界的な自動車再編や、またフランスとの外交関係などをきちんと考慮して行ったものかどうか、はなはだ疑問に思える。
・第二は、ニューヨーク・タイムズの前東京支局長だったマーティン・ファクラー氏による、日本メディアの問題指摘だ。一番ひどいと思ったのは、フランクフルター・アルゲマイネ紙の東京特派員だったゲルミス記者が受けた仕打ちだ。彼は2015年に、日本の歴史修正主義が中韓の連帯を強め,日本を孤立させる危険性を説いた記事を書いた.これに対して日本外務省はアルゲマイネ紙本社に抗議に訪れたという。記者が基本的に何を書こうと,それが事実と違わない限り、文句をいわれる筋合いはない。そんな抗議をすれば、バカにされるのがオチだ。
・外務省の役人は上に言われて、抗議に行ったのだろうが、こうしたことが本当に日本の国益に沿うかどうか、ちょっと考えてみたら良かったと思う。
・今回のゴーン事件も国際的には、やっかいな波紋を呼ぶ可能性がある。そうしたことをすべて踏まえた上で、糺すべきは糺すというのが,成熟した先進国家の対応ではないだろうか。
(参考)
・ウォールストリート・ジャーナル、「社説:ゴーン氏取り調べの不可解さ」,2018年11月27日
・金子勇、「Winnyの技術」、アスキー出版、2005
・マーティン・ファクラー、「安倍政権にひれ伏す日本のメディア」、双葉社、2016