野口悠紀雄、「平成はなぜ失敗したのか」を読む。
2019.03.23
・野口氏は現代日本のエコノミストとして抜きんでた存在である。それは、深い学識と共にその学問的姿勢が一貫しており、ぶれないからだ。
・日本のエコノミストは、ややもすれば現実離れした精密数学モデルに没頭するか、もしくは政府の審議会のメンバーなどとなって、現実肯定の発言をしがちである。その意味で、こうした路線から超然としている野口氏は貴重な存在といってよい。
・この本のテーマは平成(1988-2019)の30年にわたる日本経済をたどり、なぜそれが”失敗したのか”を検証することである。それを一言で言えば、世界経済の大きな変化に日本経済が取り残されたことにある(p2)。
・ここでは平成を3期間に分けている。第一期は1990年代でバブル崩壊により、日本経済が痛手を受けた時期、第二期は2000年代で、円安による経済回復をもくろむもリーマンショックで失敗に終わった時期、第三期はそれ以降で民主党政権による混乱、東日本大震災と日銀による超金融緩和とアベノミクスの失敗が明らかになった時期である。
・野口氏は、世界経済の大きな変化を、中国の勃興とIT革新の進行と捉えている。この二つに日本経済はうまく対応できなかったために、現在の停滞があるという。
・日本がこの間行うべきであった改革は、①製造業のビジネスモデル変革(輸出依存の大量生産型からモノづくりをしない製品のコンセプト開発と販売集中型への転換:水平分業化)、②IT革新をふまえた脱工業化への転換(金融等高度サービス産業の比重を増すこと)。しかしこれらは実現されなかった。一言で言えば、「アベノミクスは経済成長を実現できなかった」(p225)。
・その基本原因、日本経済のリーダー(官民)が「過去に執着し、変化に抵抗したため」(p134)。
・今後なすべきことは、改革の遅れを取り戻すこと。
・この本に対する、筆者なりの雑感を述べておく。第一はこの本から野口氏のあきらめないし無念さが感じとれることだ。彼のような日本有数のエコノミストが、何十年にもわたり正論を明快な形で提起しながら、結局それが取り入れられす、今日に至ったことに対する憤りといってもよい。これはエコノミスト石橋湛山が小国日本論を提起しながら、結局太平洋戦争に突入せざるを得なかった戦前の事例を思い出させる。第二は、経済学とは何だったのかということだ。現代経済学は、率直に言って数学で遊びすぎた感じがする。そこには歴史観や時代の大きな流れといったものは入ってこない。日本のエコノミストは、長期低迷の現実に直面して、いよいよその存在意義が問われはじめている。最近経済学部の人気が受験生の間で下がっているという話を聞くが、宜なるかなと思われる。
・本家のアメリカでは、経済構造の変化に対して、歴史を踏まえた馬力のある分析が行われている。この意味でも日米間の格差は大きい。
(参考)
・野口悠紀雄、「平成はなぜ失敗したのか」、幻冬舎、2019
・R.Gordon,The Rise and Fall of American Economy,2016,Princeton Univ.Press
ゴードン、「アメリカ経済成長の終焉」、高遠 裕子、山岡 由美訳、日経BP,2018