天然ガス価格がマイナスに
2019.04.07
天然ガスは石油と並んで今日の主要なエネルギー源だ。その価格が北米の井戸元でマイナスに振れるという珍現象が生じた。
アメリカテキサス州のパーミアン盆地はシェールオイルの主生産地だ。そこで、天然ガス価格は-2.5$/Mbtuをつけ(Waha hub)、結局-1.95$/Mbtuで落ち着いた。これは史上最低価格だそうだ。
こうしたことの背景には、シェールオイルのブームがある。パーミアン盆地とニューメキシコの石油生産は、原油価格の上昇を受けて2016年以来120%増加した。石油の増産は天然ガスを随伴して生産するため、天然ガスの生産もほぼ同量増えた。
しかし天然ガスを運ぶパイプ容量は限られており、また余剰天然ガスを油井で空中に放出もしくは燃焼することには規制がかけられている。こうして生産業者は余った天然ガスをパイプライン業者に金を払って処理してもらうしかなくなった。まるでゴミ処理と同じだ。これが天然ガス・マイナス価格の原因だ。
パイプライン業者にとっては、これは儲けの種で、マイナス価格で引き取った天然ガスを遠隔地に運べば、プラス価格で売ることができるので、二重の利益を得ることができる。
Kinder Morgan社は、こうした事態を利用すべくパーミアン盆地からのパイプライン新設を計画中である。またルイジアナにLNGの輸出基地を計画中のTellurian社は、パーミアン盆地のWahaから625マイルのパイプライン設置を計画している。
他方でこの空前の天然ガス余りをうまく使おうとする人々も出てきている。カナダのアルバータ州のマーウェン(Marwayne)では油井のそばにコンテナを置いて天然ガス発電を利用したビットコインの発掘に励んでいる。これは石油会社に財政的プラスをもたらすだけでなく、発電コストが安いので、低価格でビットコインの供給が可能になる。同じことはアパラチア地方でも起こり掛けているようだ。
日本のエネルギー企業はこうした動きをうまく利用しているだろうか。おそらくこれまでの供給業者との長期契約に慣れ、短期的な変動を長期的な利益に転ずる機転があまり利かないのではないか。たとえば金鉱山などでも、単に採掘を調整するだけではなく、先物市場への介入を通じて、生産と販売に関して最適なポートフォリオを組むことが日常的であるという。動きの速い現代に利益を得るためには、エネルギー産業といえども、これに似た機敏な判断と行動が必要になろう。
(参考)
・Ed Crooks,"Shale boom cuts price of oil to record low",FT,Apr.01,2019
・Stephhnie Yang,「ビットコインと天然ガス? 以外にも思惑一致」WSJ,Apr.01,2019