原油価格の決まり方
2019.05.18
・最近原油価格の動きが激しい。
・かって原油価格の動きは、枯渇性資源の理論で読むことができた。これはホテリング定理と呼ばれ、有限な枯渇性資源の最適生産の理論だ。そこにソーラーなどの非枯渇性資源が入ってきて、これはノードハウスのバックストップテクノロジー理論で説明された。これによって枯渇性資源の上限価格が決まってくる。おそらく現在の原油価格モデルもこの二つの理論を組み合わせて作られている場合が多いだろう。
・しかし最近では、世の中はさらに複雑になっている。原油価格に影響を与えるいくつかの要因をあげる。
1)需要ピーク論:これは温暖化問題によって原油の使用が長期的に頭打ちになるという議論だ。たとえばEV(電気自動車)が普及すれば、ガソリン需要は消失することになる(IEAのSustainable Development Scenario)。
2)ソーシアルコスト論:産油国が政治的安定を保つためには、国民生活の維持がきわめて重要になる。サウジやUAEで財政健全性と生活水準の維持を図るためには、原油価格は60ドル/バレル以上でなければならない(IMF)。
3)シェールオイル生産のインパクト:米国エネルギー情報局(EIA)によると、2020年までにアメリカは石油の純輸出国に転じるという。これが世界の石油需給に及ぼす影響はきわめて大きい。
4)イラン原油禁輸:トランプ大統領は、5月2日、各国に対しイラン原油の全面禁輸措置を求めた。これに対しイラン側がサウジの石油パイプラインをドローンで攻撃したようだ(5月14日)。
・さて今後の原油価格はどうなるだろうか。ここから先は、いわゆるゲーム論的展開になる。
1)OPEC側の立場:原油価格は高いほど望ましい。ただし需要飽和論を考慮に入れれば、適当な時期までに石油を売り尽くし、石油なしでも生きて行ける近代国家に生まれ変わりたい。
2)アメリカの立場:シェールオイルの生産者としては、原油価格は高いに越したことはない。ただしアメリカは石油の大消費国でもある。とくにガソリン価格の上昇は、消費者マインドを大きく揺らすので、その意味では原油価格水準はほどほどであることが望ましい。また中東の政治情勢、とくにサウジアラビアの政治的安定は重要だ。
3)消費国の立場:原油価格は安いに越したことはない。ただし温暖化問題を考えると脱石油への道を中長期的にはたどらざるを得ない。炭素税の付加は、消費国側での原油価格の上昇につながるだろう。中東から石油を引き続き輸入するためにも、同地域の政治的安定は望ましい。
4)トレーダーの立場:原油価格は上がろうと下がろうと、その変動幅が大きければよい。したがって(中東崩壊につながらないような)政治的ショックは、原油価格の変動を拡大するので望ましい。
これ以外にも、たとえばロシアは税収の半分を石油天然ガスに依存しているため、原油価格の動向には敏感だ。
・以上の要因を短期、長期に分け、さらに協調と対立に分ければ、ゲーム論的分析が可能だろう。日本経済にとっても石油の動向は経済に大きな影響を与える。こうした分析が必要な所以だ。
(参考)
・McFarlane B.,Minczeski、「OPEC対シェール、原油価格の主導権どちらに」WSJ,2019.04.19
・Faucon B.,Said S.,「米国とサウジの攻防激化、イラン原油禁輸で」,WSJ,2019.05.03
・Sheppard D,"US shale boom has blunted impact of global oil threats",FT,2019.05.03
・IMF,Regional Economic Outlook, Middle East and Central Asia,Oct.2017
・IEA,World Energy Outlook 2017,Nov.2017
・室田泰弘、「エネルギーの経済学」、日本経済新聞社、1984