山本太郎現象と複雑系のレジームシフト
2019/08/10
・先の参議院議員選挙で山本太郎氏率いる令和新撰組が政党として228万票を取り、世間の注目を浴びた。これは既存の政党、たとえば国民民主党の得票数348万票に比べても、遜色ない数字だ。
・また最近の週刊誌では、投資家のジム・ロジャーズが、”もし私がいま10歳の日本人ならば、自分自身にAK-47(ロシアの自動小銃)を購入するか、もしくは、この国を去ることを選ぶ”と述べ、日本経済の将来に警鐘を鳴らしている。
・日本の経済社会システムを複雑適応系と見なすと、こうした現象は既存システムのきしみを示す信号と見ることができる。
・こうした不安感は単にアウトサイダーだけのものではない。体制側の人々の中にも同様な危機感を持つ人が出始めている。たとえば、経団連の夏期フォーラムが本年7月中旬に軽井沢で開かれたが、エネルギー問題に関して、大手商社のトップが原発再稼働の推進に関して、「それが本当にベストなのか」という疑問を呈して、会場を揺るがせたという。
・現在、日本の経済社会システムはIT革新のインパクトを受けて、レジームシフト期に入りかけている。つまり動力革命に支えられた工業化社会からネットワーク社会への転換が進み始めている。これは既得利権者層にとっては、一つの脅威だ。なぜならこうした転換によって既得利益が損なわれ兼ねないからだ。
・このため日本の政治家、官僚、大企業の指導者は、徹底した現実維持路線を取り、レジームシフトに背を向けている。よく政府の音頭取りでIT社会への転換などが叫ばれるが、それは見かけだけのことだ。それは日本にGAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)が存在しないことを見てもわかるだろう。
・指導者層がレジームシフトによる転換に抵抗すると、変化は突然生じ、カタストロフィックな結果を招きかねない。人々は、NHKを見、政治家が各国を訪問するのをみて、何となく世の中はこのままで進むと思っているが、それはある日、裏切られる。少し敏感な人は、今のシステムが、このままでは維持できないことを、感じ始めている。その現れが今回の山本太郎現象だろう。
・ちなみに一つのシステムが短期的な最適のみを追求し、長期的な利害を無視して変化に抵抗すると、突然大きな修正が生じ、人々の生活に多大なロスをもたらすことになる。この現象は、エコロジー分野では、すでにモデル化されている。その一つが、ここで引用しているカーペンター論文だ。
(参考)
・Carpenter S., Brock W. and Hanson P., ”Ecological and Social Dynamics in Simple Models of Ecosystem”, Conservation Ecology 3(2):4,1999
www.consecol.org/vol3/iss2/art4
・ジム・ロジャーズ、”世界から見たニッポン経済の未来”、週刊現代、2019年8月3日号・朝日新聞ディジタル、2019年7月22日