就職活動と人気企業
2019.08.31
・年々就職活動の開始時期が早まり、8月終わりはもう終盤かもしれない。最近2020年の就職人気ランキングをみていたら、文系のトップはJTBだった(マイナビ・日経調べ)。
・旅行の窓口として、JTBがこれまで果たしてきた役割は大きい。それに学生が魅力を感じるのも理解できなくはない。しかし日本の場合、いったん一つの会社に就職したら、一生そこで面倒を見てもらうのが、お約束事だ。JTBは今後も数十年にわたって、その経営は安泰だろうか。
・フィナンシャル・タイムズの記事を読んでいたら気になる記事が目についた。それは世界最古の旅行代理店(1841年創立)である英国のトーマスクック社が経営危機に陥り、中国のコングロマリット復星国際(Fosun)から資金援助を受けたというニュースだ。復星国際はトーマスクックに4.5億ポンドを提供し、その見返りとして同社の旅行ビジネス株式の75%、エアラインの25%を入手するという。
・復星国際は1992年の創立で、不動産、保険など多角的な経営を行っており、レジャー分野でも、これまでに地中海クラブ、星野リゾートトマムなどを傘下に入れている。
・JTBのような旅行代理店の基本問題は、旅行ビジネスがIT革新の影響を受けて構造変化し、その役割が無くなりつつあることだ。今の主流はエクスペディアやブッキング・コムであり、多くの人が、これを使ってネットでホテルも飛行機も自分で予約してしまう。トーマスクック社はこの変化に対応できなかったことになる。
・話はJTBに戻る。同社の売上げは1.3兆円、経常利益は94億円となっている(平成30年3月期)。ちなみにエクスペディアの売上げは1.1兆円、純利益は400億円程度(2017年、1ドル105円で換算)である。売上げは両者ほぼ同じだが、利益水準はだいぶ違う。
・JTBはトーマスクックの道をたどるのか、それともIT化の波にうまく乗って、エクスペディアに対抗できるようになるのか。しかし後者の可能性はあまり高くない。たとえばJTBの売上げ内容を見ると、国内向けが圧倒的に大きい(売上げ1.3兆円のうち1.1兆円程度)。つまり基本的に内向けの企業なのだ。国内の企業や個人の旅行手配で食べている会社ということができる。これで最新のIT技術を駆使する世界企業と競争できるだろうか。
・こうして考えてみると、JTBに一生を預けようという学生は、結構大きなリスクを取っている。もしこの会社がエクスペディア化できなければ、社員はどこかで次の道を探すことになるかもしれない。仮にエクスペディア化できたとしても、そのとき並の社員はあまりいらないことになる。日本の学生は、特に文系は、専門知識がない。単なる組織遊泳のうまいゼネラリストは、こうした会社で生き残れるだろうか。
・学生が就職に当たって、一生を託す企業内容をきちんと調べているのか、いささか疑問だ。他の学生が志望するからといって、それに引っ張られ、有名ブランド企業に就職すれば、中年になって厳しい選択を迫られるかもしれない。むしろエクスペディアや復星国際への就職をねらったらどうだろう。
(参考)
・Alice Hancock,"Thomas Cook agrees main terms of £900m rescue deal",FT,2019.08.29