グーテンベルクとルター
2019.11.16
・今大技術革新(マクロインベンション)のことを少し調べている。ポイントはマクロインベンションの一つである産業革命の経済社会的インパクトが汎用的なものか、それとも特殊なものかということだ。これを検討するために、もう一つのマクロインベンションであるグーテンベルクの活版印刷を取り上げてみた。これは羅針盤、火薬と並ぶルネサンスの三大発明の一つといわれている。
・ちなみにマクロインベンションの特殊性と一般性を問うのが、トム・ウィーラーの著書「グーテンベルクからグーグルへ」である。ちなみに彼は2013年から2017年までオバマ政権の元でFCCの委員長を務めた実務家兼歴史家である。
・グーテンベルク(1398?-1468)は、活版印刷を発明し、それを実用化した。それまで本は修道院で筆写による生産が行われていた。グーテンベルクの発明はアルファベットを金属で活字化し、それを組み合わせることで文章を構成し(活版化)、その活版に圧力を掛けることで紙に印刷した。ちなみにこの圧力を掛ける機械はもともとブドウを搾るための圧縮機であったといわれる。
・彼は、この技法を使って、最初は小型のラテン語文法書を印刷し(1439年頃)、そして1454年に「42行聖書」の印刷を行った(42行は、1ページに収められた行数のこと)。これは筆写による豪華で立派な聖書に比べても、けして見劣りするものではなかった。
・この活版印刷は、宗教改革の道を切り開くことになる。ここでルターが登場する(1483-1546)。
・彼はグーテンベルクより一世代後の生まれ。当初、カソリックの修道士となる。当時の教会では礼拝にラテン語が使われ、一般大衆はそれを理解できなかった。したがって司祭がラテン語による聖書を元に説教を行うことで、大衆は信仰に導かれた。つまり神と民衆の間にカソリック教会が介在していた。その教会が資金集めのために免罪符を売り出し、無知な民衆はこれを買うことで罪が免れると思い込まされた。
・ルターは免罪符の販売に怒りを覚えた。これによって教皇庁には莫大な金が流れ込むが、民衆の信仰を誤った方向に導くからだ。
・1517年10月31日、ルターは、こうした疑問を「95箇条の提題」という形で提起し、それをビッテンベルク城教会の扉に掲示した。これはラテン語で書かれていたが、すぐにドイツ語版が活版印刷で作成され、全ドイツに広まった。つまり宗教改革のはじまりである。
・これによって彼は教皇庁の審問に掛けられ大破門される(1521年)。
・ルターはこれにひるまず、ドイツ語に聖書を翻訳。これが活版印刷によって広まり、民衆は直接聖書に触れられるようになった。
・ちなみに、1500年までに255の印刷所において、少なくとも3万点の書物が2000万部印刷されたという(戸叶,p200)。
(参考)
・Tom Wheeler,From Gutenberg to Google,Brooking Institution,2019
・戸叶勝也、「グーテンベルク」、清水書院、1997
・徳善義和、「マルチン・ルター」、岩波新書、2015