GPIFの外国株貸し付け停止に関して
2019.12.07
・GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は日本の公的年金の運用機関だ。英国のコンサルティング・ファームで保険ブローカーのウィリス・タワーズ・ワトソン(Willis Towers Watson)によると、ちょっと古いが(2016年度)、その運用資産規模は世界一であるという(運用額1.2兆ドル)。2位はノルウェーの政府年金基金の8,900億ドルである。ちなみに資産運用がうまいので有名なCalpers(カリフォルニア州公務員退職年金基金)の規模は3,070億ドル(同、7位)。
・このGPIFが最近保有する外国株の貸株を停止した。その理由はESG投資家としての性格を明確にするためであるという。要するに貸株をするとその借り主がどのような投資行動に出るかがはっきりしないため、GPIFのポリシーに合致しない可能性が生じるからのようだ。
・この決定は面白い反応を生んだ。テスラのイーロン・マスクはさっそくツイッターで、「ブラボー、良い決定だ。空売りは非合法すべきなんだ」と述べた。
・その背景は、こういうことだ。過去においてテスラの株は、マスクの発言と企業の財政状況の不安定性から、乱高下してきた。その主役が空売り筋だ。テスラに関してちょっと悪いニュースが出ると、空売り筋が介入し、テスラの株を大きく下げてきた。そのたびにマスクは、応戦を強いられてきた。空売りをするには、株を借りてくる必要がある。その供給源が貸株制度だ。今回のGPIFの決定によって、貸株の供給がタイト化すれば、空売り筋の出動が難しくなり、テスラにとっては株の乱高下による企業価値の変動を防げることになる。ちなみに最近テスラの株は業績の急好転を反映して、100ドル以上値上がりした(2019年8月28日の株価が216ドル、2019年11月のそれが352ドル)。空売り筋はかなりの損を出したろう。
・株の空売りが経済全体にとってプラスかマイナスに関しては、これまで議論が行われてきた。しかしそこでの議論は、空売り制度があったときのマーケット全体に対する効果であり、個別企業に関してではない。この意味で、マスクの発言は空売り弊害論の一つの論拠ともなりえる。つまりそれは、新興IT企業の成長を妨げる可能性があるからだ。
・世界的な低金利下で、GPIFも運用成績を上げるのに苦労している。ちなみに貸株によるGPIFの利益は3億ドル(2018年度)だったという。GPIFは、この分を別なところで稼がねばならない。
(参考)
・Leo Lewis and Billy Nayman,"World's biggest fund strikes blow against short-sellers",FT,2019.12.03
・James Powell,"Elon versus evil shorties",Alphaville,Dec.3,2019
・Quick Money World,”「空売り"の社会的意義を考える”、2016.06.24
https://moneyworld.jp/news/06_00000180_news