地球温暖化問題の最前線
2020.03.01
・友人からマッキビンが書いた温暖化問題の論評が面白いと教えられ、早速読んでみた。これを載せたNew York Review of Booksは高級書評誌で、以前ロバート・ゴードンのRise and Fall of American Economy(邦訳あり)をノードハウス(ノーベル賞受賞)が論評していたことがある。
・著者のマッキビンはアメリカの環境運動家で、タイムマガジン誌は彼のことを”世界でもっとも有能な環境ジャーナリスト”と評している(2010年)。
・ここでは彼が引用した2つの論文を取り上げる。
・第一は、ハウスファーザー(UCバークレイ校)等による、温暖化モデルがどれだけ現状をうまくシミュレーションできているかを検証した論文だ。温暖化問題が論議され始めてからすでに約50年が経過している。その間多くの温暖化モデルが開発され(注意:ここでの対象は経済社会モデルでなく、気象モデル)、将来の温度上昇などを計算してきた。われわれは、今日、50年にわたる温度やCO2濃度などの実績データを持っている(1970-2020年)。この論文は、温暖化モデルが地球変化の実績(CO2濃度や平均気温[GMST]の変化)をどれだけうまく追えているかを検証している。
・対象は1970年から2000年代後半までに発表された17モデル。評価基準は、計算された温度変化と放射強制力変化の比率(TCR)がどれだけ実績を追っているかだ。その結果、温暖化モデルは、かなり的確に現実の変化をうまく追えていたことがわかった。このことは、温暖化懐疑主義者のモデル不信論を覆すものだ。地球はわれわれの活動によって、温暖化が進行しており、その経過は温暖化モデルのロジックによって追うことができるということだ。ここから導かれる結論は、温暖化問題の存在そのものを否定する段階はすでに終わったといえそうだ。
・第二の論文は、温暖化の進行メカニズムを解明したものだ。主著者のスティフェンはストックホルム大学教授。この論文は、地球の気候システムのダイナミクスをリミット・サイクル(非線形体系で、システムが一定の循環軌道に乗る)でわかりやすく説明したところにある。つまり氷期と間氷期のサイクルをこのサイクルで説明している(そのメカニズムに関してはNorth Modelを参照されたい)。スティフェン等は、CO2濃度の増加によって、地球はこのリミットサイクルから外れつつあり、その先には「温室化された地球」(Hothouse Eearth)が待ち構えているという。この変化を引き起こす炭素循環のフィードバック回路が個別に検討されている(永久凍土の氷解、土地や海洋の炭素シンクの弱まり、海洋におけるバクテリア呼吸の増大、アマゾン熱帯雨林の消失、シベリアタイガの消失など)。
・問題なのはこれらのフィードバック経路が互いに関連し合っていることだ(例:アマゾンの熱帯雨林消失がエルニーニョを引き起こし、それが南極の氷床を溶かす等)。したがってある段階でポジティブ・フィードバック(温度上昇がCO2濃度を高め、それがさらに温度上昇を強める)が強まる可能性がある。この閾値(ティッピング・ポイント)が地球の平均気温上昇2度程度(産業革命以前の平均気温に比べ)であるとしている。
・こうした人間活動による地球システム変化の時代を人新世(Anthropocene)と呼ぶそうだが、いよいよわれわれがその領域に突入しつつあることをこの論文は示している。
・この2つの論文を読む限り、温暖化問題は、地球に住む我々にとってもはや無視できない問題となっている。先進国の日本も、いまから20年以内に、CO2排出量を現在の3分の一程度まで減らすことになるだろう。もちろんこの場合、その実現のために、原子力拡大という選択肢は取り得ない。
・当方が開発したe予測:ENE/CO2シミュレータはまさにこの問題の検討を、マクロ経済や産業構造の変化を組み入れることにより、行うためのものである。
(参考)
・Bill McKibben,"A Very Hot Year",The New York Review of Books,2020.02.27
・Zeke Hausfather,Henri F.Drake,Tristan Abbott,Gavin A.Schmidt,"Evaluating the Performance of Past Climate Model Projections",Geophysical Research Letters,Dec.4,2019
・Will Steffen,Johan Rockstrom,Katherine Richardson et al."Trajectories of the Earch System in the Anthropecene",PNAS,Aug.14,2018,Vol115.No.33