将来の不確実性とシェルのシナリオアプローチ
2020.03.20
・世間はコロナウィルス騒動であたふたしているが、こうした不確実性の高まるときこそ、分析者は将来に関するしっかりしたシナリオを提示しなければならない。
・その意味で参考になるのが石油メジャーのシェル社が開発したシナリオ・アプローチだ。
・話は1970年代にさかのぼるが、同社のピエール・ワックは会社の将来を検討するため、シナリオ・アプローチを開発した。シェルは、それを活用して、1973年の石油危機を予測し、うまく危機を乗り越えた。さらに1981年の第二次石油危機のときには、大方の需給逼迫論とは異なり、独自のシナリオに従って石油在庫を売りさばいて大きな利益を上げた。このことでワックは世界的な注目を集め、シナリオ手法はハーバード・ビジネス・スクールで教材として採用された。
・彼の主張を筆者なりにまとめてみる。
*通常の予測は「明日は今日の延長」と考える。しかし予測がもっとも必要とされるのは、明日が今日の延長上にないときだ。
*世界は不安定性を増しており、”唯一の単一予測”などありえない。この不確実性を認めることがシナリオ作成の第一歩だ。
*重要なのは、どのような変化要因が世界のノーマル(基準)を変えるかだ。70年代の石油の場合で言えば、買い手市場の売り手市場への変化がこれにあたる。つまり非連続をもたらす要因に注目する必要がある。
*シナリオ作成に当たっては、まず先決条件(predetermined elements)と不確実性をもたらす要因(uncertainties)ならびに断絶可能性(potential discontinuity)を判別することが大事だ。
*シナリオ分析を有効にするためには、仮説がもたらす結果を迅速かつ定量的に示す柔軟なシミュレーションモデル(flexible simulation model)が要る。
*シナリオは、①サプライズ・フリー(多くの人が共有する未来像)②ほぼ確実に起こる思われる要因が生じた場合、③その他の不確実性が生じた時の場合などを示す。
*シナリオ作成の目的は、意思決定者の世界観(managers' view of reality)を変えること。
・良いシナリオを作るに当たっての重要点。
*未来に関する直感力を大事にする。
*将来を線形的(現在の延長)ではなく、非線形的、非連続的なものとしてとらえる。 *議論の焦点を絞る。
*定量的な分析は不可欠。
*議論に関して、閉鎖的でなくかつ好奇心を重視する。チーム内の異論は大事。
・つい最近(2020年3月20日)、コロナウィルスに関して米英の政策当局がとった措置の背景となるシミュレーションが公開された(Imperial College)。これをみるとなにも処置をしなかった場合、両国で5月から7月にかけて大変な事態が生じることがわかる。その意味で、このシミュレーションは、一種のシナリオであり、政策決定者の意思決定に役立ったことが見て取れる。
・e予測は、将来の不確実性に関して様々な定量可能性を示すことを目的として開発されている。つまりシナリオ作成ツールの一つだ。その結果はマクロゲーミングとして公開される。
(参考)
・Pierre Wack,"Scenarios:Uncharterd Waters Ahead",HBR,Sept.1985
・Angela Wilkiinson and Roland Kupers,The Essence of Scenarios,Amsterdam Uni. Press,2014
・Chelsea Bruce-Lockhart,john Burn-Murdoch and Alex Barer,"The Shocking cornavirus study that rocked the UK and US",FT,March 20,2020"