CPU内製化のトレンド
2020.07.18
・先月、アップルは恒例の開発者会議をWWDC(Worldwide Develoopers Conference)をリモート開催し、MacのチップをインテルのX86アーキテクチャーから独自のARMベースに変更することを発表した。
・これは一例だが、いわゆるチップメーカー発売の汎用CPUを使わずに、自社に適したCPUを独自開発するというのが最近のハイテク企業のトレンドだ。
・たとえばその典型例が、テスラのFSDC(Full Self-driving Computer)という独自チップの開発だ。これはもともとAutopilot Hardware3.0と呼ばれていたものだが、2016年に開発が始まり、2019年4月に公開された。
・ちなみに、開発を主導したJim Kellerは、天才肌のCPU開発者だ。彼はテスラからインテルに移り、本年6月インテルを辞任した。またテスラでFSDCの共同開発に携わったPeter Bannonもアップルでプロセッサー開発を行っていたこの業界のプロだ。
・FSDCは、そのハード的性能もさることながら、注目すべきは消費電力を100W以下に抑えたことだ。自動運転の実現にはチップの高性能化が欠かせないが、これは同時に消費電力の指数的増大を招く。テスラのチップはこの課題を克服している。
・テスラのの進展はとどまることを知らず、この7月に上海で開かれたWorld Artificial Intelligence Conferenceで、テスラ社長のマスクはレベル5の自動運転達成は目前と述べたようだ。
・アップルとテスラの例をみても、これからのIT社会で競争力を維持するためには、自前でチップを開発できる力が不可欠であることがわかる。それはインテルやNVDIAのようなチップメーカーに厳しい問いかけをする。同時に、自動運転を目指すが、自前でチップを開発できない日本の自動車メーカーにとっても無視できない課題をつきつける。
・ITジャーナリストの中尾真二氏はこの点をわかりやすく解説している(「テスラを正当に評価できない日本は時代に取り残されないか」、ダイアモンドオンライン)。まず第一にテスラのOTA(Over the Air)機能だ。これはオンラインでECU(engine control unit)をアップデートする機能で、これによってすでに販売されたテスラ車の自動運転機能が絶えず改良される。
・またECU(engine control unit)に関して言えば、既存自動車メーカーのADAS(先進自動運転システム、Advanced Driver-Assistance Systems)は緊急ブレーキ、レーンキープなどの機能を別々のECUやモジュールで処理する仕組みを取っている。これに対し、テスラは各モジュールや総合的に管理するECUを持っている(上で述べたFSDC)。しかもそれはOTAによって日々更新される。
・このテスラのFSDCチップの開発には、上に述べたように、Jim Kellerのような天才的技術者が携わっている。独自プログラムの場合もそうだが、全く新しい絵を描くことができるのは、こうした天才だけだ。マスクはこうした天才をうまく使うことで、自動運転チップの開発に成功した。
・日本の技術者は、秀才ではあるが、天才ではない(例外は、零戦の堀越二郎氏やホンダの創立者本田宗一郎)。秀才が何人集まっても、一人の天才には勝つことができない。さてどうしたものか。
(参考)
・Richard Walters,"Where did it all go wrong for Intel?",FT,July 10,2020
・Wired,"MacのARMへの移行から、すべてのOSの進化まで:アップルが「WWDC 2020」で発表した7つのこと",2020.06.23
・Gigazine,"イーロン・マスクが『2020年内に完全自動運転技術を実現できる』と語る",2020.07.10
・中尾真二、「テスラを正当に評価できない日本は時代に取り残されないか」、ダイアモンドオンライン,20.06.21
・Devin Coldewey,"Teslaは独自開発の自律運転用新型チップを『世界最高』と誇示",Tech Crunch,2019.04.24
・Wikichip,"FSD Chip Tesla",2020.05
・Rob Csongor,"Tesla raises the Bar for Self-driving Carmakers",NVDIA Blog,Apr.23,2019