小林剛著、「テレワークの『落とし穴』とその対策」を読む
2020.08.19
・近年のコロナショックによって、テレワークが一挙に企業の注目を集め始めている。本書は、実際にテレワークを導入した、もしくは導入予定の企業や役所の担当者にとって便利な一冊となるだろう。
・著者の小林氏は、エコノミスト誌の敏腕記者を経て現在独立しており、筆者の長年の友人である。
・本書を早速読んでみて、いかにも小林氏らしく、丹念な取材の結果書かれたものであることがよくわかった。ただし取材方法は、IT時代らしく、もっぱらウェブに頼っている。
・本書の構成は、”上司・会社がはまる落とし穴と対策”(第2章)、“社員がはまる落とし穴と対策”(第3章)など、テーマ別に問題と解決策が例示されているので、読みやすい。そして終章は”テレワークガイドブックの道案内”と題して、さらに詳しく知りたい人向けの参考文献が解説付きで紹介されている。
・以下、興味を惹かれた点をいくつか論じてみたい。
・まず第一に米国のIT企業でテレワークを実施していたが、それを辞めた企業のあることだ。実例としては米国IBMや、米国ヤフーが挙げられている。これはなかなか気になる点だ。日本は今、テレワーク万歳で一挙にその普及が進みつつあるが、IT先進国の米国では、それを辞めた例があるということは、今後の展開において、知っておいた方がよい。これを本書の最初に持ってくるあたり、小林氏の、この問題に対するバランス感覚が見て取れる。
・第二は、日本型企業の特色である「新卒一括採用+ピラミッド構造」(いわゆる終身雇用制)に、テレワーク導入が風穴を開ける可能性のあることだ。テレワークは(中高年の)「働かないおじさん」をあぶり出す。これに関して傑作と思ったのは、テレワークに関して、従業員がサボっていないかどうかをチェックするソフトのあることだ(例Sneek)。しかしこうしたソフトに対しては、必ずユーザー側が対応できるソフトが現れるので、結局、サボりをチェックすることは難しいだろう。さて中高年のおじさんたちはどう対抗するだろうか。
・以上が本書の紹介だが、若干補足するとすれば、セキュリティ問題などに関しては、専門書を参照することが必要になるという点だ。そうはいっても、日本の企業は、こうした問題を業者任せにするだろう。筆者の感じからすれば、日本の企業担当者は、お出入り業者に、機器の選択、ソフトの選択などすべてを任せてしまうケースが多い。これが問題をややこしくする。悪いことは言わないから、自社の若手にズームや、Bitlockerの設定をやらせてみることだ。これは大幅なコストダウンにつながるだけでなく、ITリテラシーの向上につながるだろう。
(参考)
・小林剛、「テレワークの『落とし穴』とその対策」、大空出版、2020