テスラの最新動向
2020.10.31
・テスラが最近2020年度第3期の売り上げを公表した(10月21日)。同社はこのところ株価が高騰しており、2020年8月末には、それを受けて5倍の株式分割を行った。時価総額はフォートとGMの5倍程度に達している。それだけ成長期待が大きいわけだ。発表された売り上げ内容をちょっと検討してみよう。
・2020年第3期の売上は88億ドルで前期の45%増しである。そのうち自動車は76億ドルを占める(残りはソーラとバッテリー)。車種ごとの当期生産台数は、モデルSとXが約1.7万台、モデル3とYが12.8万台となっており、高級モデル(S)で市場参入し、大衆モデル(3)でシェアを稼ぐという図式がうまく働いていることがわかる。
・生産能力はアメリカのフレモント工場で59万台/年、中国の上海工場で25万台/年となっている。しかし両工場のレイアウトは完全に異なる。フレモント工場では、既存工場の改良のため、生産ラインはややごたごたしている。これに対し、新設の上海工場では、溶接工程→塗装工程→組み立て工程が見事に直線化されており、生産性の高さが理解できる(2019年第3期レポート)。おそらくベルリン工場(2021年生産開始)はさらに改良を進めるだろう。
・損益計算書を検討しよう。テスラに関しては、利益に占める規制クレジット(環境基準に達しない車を売っているメーカーへの排出枠販売)の大きさが問題になる。たしかにこの値は約4億ドル(2020年第3期)で、営業収入(Income from Operations)のそれ(8億ドル)に比べれば大きい。しかし温暖化問題の深刻化に伴い、特にヨーロッパ諸国は脱内燃機関化を進めており、これに対して既存のクルマメーカは対処に苦慮しており、この収入が当面急落することはないだろう。
・テスラの売り上げに関してもう一つの興味ある点は、家庭用の再生可能エネルギー販売の伸びだ。これは屋根に装着するソーラーパネルと、電気を貯蔵できるパワーウォールからなる。
・ソーラーの設置容量は、当期に5.7万kwで、これは前期の3倍強である。またパワウォールの設置容量は76万kwhで前期の1.8倍となっている。
・日本でもパワーウォールが販売され始めている。その蓄電容量は13.5kwhで、連続運転で5kwを確保しており、停電時に一般家庭では十分使える容量である。価格は百万円弱となっており(工事費を含まない)、魅力的だ。ちなみに日本メーカーのものは工事費込みで10kwh程度のものが140万円程度である。
・テスラのパワーウォールの特色は、ソフトにある。たとえば台風来襲で停電が予想されると、自動的に事前充電を行うストームウォッチ機能が搭載されている。テスラのクルマもそうだが、要するにテスラ製品は、ハードというより、ソフトにその特色がある。よくiPhoneをみて、こんなものは日本でも作れるという人がいるが、これはソフトの重要性を知らないから、そんなことが言える。スマフォでもEVでも、まず製品コンセプトがあり、それをソフトで具現化し、それに合うハードを付けるというのが、この業界のやり方だ。日本のメーカーはまずハードありきで、それにちょっとしたソフトを付けて製品化する。これが大きな違いだ。この点について、参考になるのは、シリコンバレー在住の中島聡氏のブログである。
(参考)
・Tesla,Q3 2020 Update,Oct.21,2020
・Patrick Mcgee,"Tesla delivers its fifth straight quarterly profit",FT,Oct.22,2020
・Charley Grant,「テスラの『危険な真実』好決算でも変わらず」、2020年10月23日、WSJ、 "Tesla Stock Price Still Makes No Sence"
・Economist,"Who will rule the Teslaverse",2020.09.17
・中島聡、「ボタン一つで自動運転で迎えに来てくれるTesla の Smart Summon 機能」
https://note.com/lifeisbeautiful/n/n37a1fef58704