だんだんと、突然に(Gradually,then suddenly)
2020.11.14
・この言葉は、サイエンス誌の論説のタイトルだったが、コロナショックをめぐる現在の社会状況を端的に表していると思う。
・オリジナルは、ヘミングウェイの「日はまた昇る」の一節から取られたものらしい。
・おそらくこれから冬にかけて、コロナウィルスの感染者は増大し、それが非線形的な変化(医療崩壊の可能性、ロックダウンの実施?)を呼び起こす可能性がある。われわれはそれに備えなければならない。
・ではどう対応すればよいか、シンクタンクのマッキンゼーはこの点を論じている。まず今回の危機の規模だが、アメリカのGDPの落ち込み(2020年)を-4.3%と見込んでいる(IMF推定)。2008年金融危機の時の落ち込みが-2.5%だったから、コロナショックはそれの倍の規模ということになる。この場合には、平時の意思決定システムはあまり役立たない。
・マッキンゼーは、組織を危機モードに転換することを勧めている。具体的には
①危機的対応の活性化
②早期警戒システムの活用
③中心となる頭脳センター(nerve center)の設立
④行動原理の透明化
などである(詳しくはマッキンゼーレポートを参照されたい)。
・以上は危機に対する受け身的な対応だが、逆にこの危機を飛躍のチャンスにするという見方もある。今回の危機を単なる一過的性の現象ではなく、むしろIT革新による経済社会システム変化の一つの現れと見るのだ。
・この見方に従えば、われわれは現在、複雑適応系(complex adaptive system)の世界に入りつつある。ブラックスワンのナッシブ・タレブの言葉を使えば、「私たちの世界は、統計的な”ベルカーブの世界”(穏やかなガウス分布)・・・から予測が非常に難しく、急激な変化が起こる世界(「ファットテール」)へと変遷しつつある」(タレブ書、p161)。
・タレブは、むしろこうした不確実性に伴う変動こそ進歩や発展の元だと主張する。それを推し進めるのは、平穏時のリーダーではなく別種の人間、つまり”クレージー・ガイ”だ。「社会を成長させるには、アジア方式のように平均を押し上げるのではなく、”テール”に属する人数を増やす必要があるのかもしれない。クレージーなアイデアを想像し、想像力という稀有な能力、そして勇気というもっと稀有な能力を持ち、アイデアを行動に移すほんの一握りのリスクテーカーがいるからこそ、社会は成長するのかもしれない」(タレブ書、p296)。
・日本では、ここで困った問題が生じる。日本の教育も企業システムも、人柄がよく、成績優等な人材を育て、それを社会発展のリーダーとして育ててきたからだ。これは平穏時のモデルだ。それに外れた人間は、この社会では生きづらい。となると日本は、社会システムの抜本的な見直しをしない限り、ポストコロナの時代に生き抜くことは難しいかもしれない。
(参考)
・H.Holden Thorp,"Gradually,then suddenly",Science,6,Nov.2020
・Patrick Finn,Mihir Mysore and Ophelia Usher,"When nothing is normal;Managing in extreme uncertainty",McKinsey & Company, Nov.2020
・ナシーブ・ニコラス・タレブ、「反脆弱性」、望月衛監訳、千葉敏生訳、ダイアモンド、2017
Nassim Nicholas Taleb,Antifragile,Random House,2012