コロナショックの経済コスト
2020.12.12
・前回のブログでは、ハーバード大学のサマーズ等によるコロナショックのアメリカ経済へのコスト試算を紹介した。
・ここでは、当方のe予測シミュレータを使って日本のコロナショックの経済コストを求めてみる。まずマクロ経済のBAUケース（何もなかった時のGDP推移）を求め、次いでコロナショックのケース計算し、その差からコロナショックのGDPロスを求めている。これはCBO（アメリカ議会予算局）のやり方と同様である。
・計算結果は図に示すとおりだ。この試算によれば、2020年、2021年合わせて61兆円のGDPロスが生じる。これはGDP規模の1割強となる。サマーズ等のアメリカに関する試算は、GDPロスを約4割としている。当方の推定値の方が小さいが、これは①日本のＸファクター、②サマーズ試算は2030年までを対象にしていること、などによるものだろう（図参照）。
・経済ロスはこれ以外に、コロナショックによる死者のVSL（統計的生命価値、value of statistical life）によっても生じる。
・前回のブログでも紹介したが、シンクタンクのマッキンゼーによると、アメリカの感染ピークは来年半ばらしい。つまり今後も拡大が続くということだ。
・日本に関しても、最近は外国の機関が感染データの予測値を発表してくれている。主なものとしては、IHME(Institute for Health Metrics and Evaluation、アメリカのワシントン大学)やグーグルのそれがある。グーグルの予測期間はほぼ1か月であるのに対し、IHMEは来年4月までの予測を行っている（図参照）。IHMEによると、日本の死者数は来年4月で5万人程度とされている。現在の死者数が2,500人程度だから、今後大幅な増加が予想される。つまりマッキンゼーによるアメリカ予測と同様に、感染のピークはこれからだということを示唆している。
・余談になるが、日本に関する予測はIHMEもグーグルもアメリカによるものだ。日本でも大学や研究所などでAIやデータサイエンスが旬の学問として騒がれてきた。なぜ彼らが、こうしたツールを使って、日本のためにこうした予測値を発表しないのかは、よくわからない。実践的学問の価値は、こうした危機時にこそ発揮されるのではないか。
・本題にもどろう。ちょっと残念な話ではあるが、日本のコロナショックによる死者数の合計値をIHME数字を参考にして10万人としよう。これを経済価値に直すには上に述べたVSLを用いるが、日本の場合2.3億円/人程度とされている。これを10万人に乗じると、23兆円となる。先に計算したGDPロスとこれを合計すると84兆円となる。これは現在のGDPの6分の1程度であり、決して小さな数字ではない。
・この被害を小さくするためには、ロックダウンやワクチンの接種が考えられる。しかしそれらが実効性を上げるには、もう少し時間がかかるだろう。
・ということになると、来年半ばに予定されているオリンピック開催はなかなか難しい。まず諸外国のコロナの感染ピークが来年半ばであれば、そのとき日本が外国からのお客を迎え入れることは、ほぼ不可能だろう。
・オリンピックに関して、今必要なのは、プランAとプランBの2つを作ることだ。プランAは、うまくコロナショックがコントロールできて、オリンピックが無事に開催できるケースだ。プランBは、感染拡大に伴い、オリンピックの開催が難しくなった時のシナリオだ。
・この2つのプランを政府が公開し、国会などで、その是非を検討すればよい。今年もあとわずかになった。オリンピックは来年半ばに予定されており、すぐにやってくる。プランAを取るか、Bを取るか、早めの検討が必要だろう。
図の出所はInstitute for Health Metrics and Evaluation（IHME）。
（参考）
・David Cutler and Lawrence H.Summers,"The Covid-19 Pandemic and the $16 Teillion Virus",Viewpoint,Jama,Oct.2020
・McKinsey & Company,"When will the COVID-19 pandemic end/ An update",Nov.2020
・IHME
https://covid19.healthdata.org/japan?view=total-deaths&tab=trend
https://datastudio.google.com/reporting/8224d512-a76e-4d38-91c1-935ba119eb8f/page/ncZpB