プログラミングの進化と経済予測
・最近のネーチャー誌を読んでいたら面白い記事にぶつかった。そのタイトルは、「科学を変えた10のコンピュータ・コード」である。
・科学の発展にコンピュータがどのような役割を果たしてきたかを、いくつかの画期的なプログラム・コードを軸として論じている。
・対象が自然科学なので、BLASなど部外漢のわれわれにはちょっとなじみの薄いコードも取り上げられている。それはフォートランに始まり、高速フーリエ変換(FFT)などを経て、AIによるディープラーニング(Alexnet)に終わっている。
・面白かったのは、パイソンのジュピター・ノートブックで、要するにパイソンという言語を使いやすくするため、ノートブックという概念でひとつのデバイスにまとめ上げた仕組みを説明している。このノートブックはコード、計算結果、グラフィック、テキストをひとつにまとめ上げている。われわれがパイソンをインストールするとき、何気なくジュピターやVSコードを装着するが、その背景にはこうしたアイデアがあったことを知らされた。
・また気候学の進歩がコンピュータの進歩と深くかかわりあっていることが、フォン・ノイマンの貢献や温暖化モデルとしてのGCM(全球天候モデル)などを題材として説明されている。リチャードソンの気象予測モデルがコンピュータなしでは実用化できなかったことはよく知られているが、改めて気候学(気象学)の進歩に果たしたコンピュータの役割に気づかされた。
・これを読みながら、自らのプログラム遍歴を思い出していた。1960年代後半から1970年代初頭に大型コンピュータでフォートランを利用し(IBM7090)、70年代半ばにはパソコンの登場で、それを使ったプログラムを書き始めた。最初に買ったパソコンはPET2001でコモドール社製だった。友人はそのころNECのTK80BSでアセンブラを書いていた。
・その後、パソコンの性能は飛躍的に向上し、当方の使う言語もBASIC,LATTICE C、QUICK BASICなどと変化し、現在はVISUAL STUDIO上でVISUAL BASICを主に使っている。もちろん、それにはいくつかのオープンソースを組み合わせてあり、GitHubなどを活用させてもらっている。またわからない問題にぶつかったときには、Stack Oveflowなどの助けを借りている。つくづく便利な時代になったものだと思う。
・こうして数十年にわたり、経済予測のプログラムを書いてきたのだが、現在開発中のe予測は、その集大成といってもよい。
・経済現象は先が読めないところに特色がある。自然科学の場合には、構造が安定しているから、それを数値モデル化すればよいが、経済の場合は、そうはいかない。
・ではどうすればよいかというと、スタライズド・ファクツ(stylized facts)をうまく活用するのだ。スタライズド・ファクツは英国の経済学者ニコラス・カルドア(1908-1986)が唱えた概念で、経験的な事実から経済変数間の規則性を見出し、それから論理を構築していくやり方だ。ちょっと難しい言葉を使えば、一般理論を立ててそれから現実を見ていくのではなく(演繹)、事実から論理を導き出す帰納的な手法だ。
・この概念を使えば、経済の不確実性を認めながら、それを貫く経験的法則群を利用することで、さまざまな将来に対する試算を行うことができる。e予測はマクロモデルや産業連関表を、こうした観点から再構築し、それを使って各種の将来試算を行っている。
・たとえば、今回のコロナショックに関しては、昨年4月にそのマクロ的インパクトを試算した。試算結果は、IMFが昨年10月に出した予測値とほぼ同等だった。つまり半年早く試算結果が出せたことになる。いち早く問題を見つけ、その経済的インパクトを計算するのがe予測の特色となっている。
・今取り組んでいるのは、温暖化問題で、2050年の社会経済構造変化を踏まえたときに、CO2排出量の削減はいかにして可能になるかを、具体的な数値で示しいる(第37回エネルギー・経済・環境コンファレンス発表予定、2021年1月26日)。
・e予測の取柄は、e予測アプリを使えば、その結果をだれでも再現できるところにある。計算の迅速性と再現性がe予測の要だ。
(参考)
・Jeffrey M.Perkel,"Ten Computer Codes that transformed Science",Nature,Vol.589,21,Jan.2021
・Nicholas Kaldor,"Economics without Equilibrium",M.E.Share Inc.,1985