ヨーロッパの超成長企業とグリーン革命
2021.03.13
・毎年、フィナンシャルタイムズ紙はヨーロッパでもっとも成長の早かった企業のリストを作成している(FT1000)。その本年版が最近発表されたが、その一位にランクされたのは、英国のバルブ・エネルギー(Bulb Energy)社だった。並み居るIT関連やフィンテク企業を押しのけての一位だから、大したものだ。
・この会社は電力を100%再生可能エネルギー(ソーラー、風力、水力)で供給し、ガスに関しては、カーボン・ニュートラル(ガスによるCO2排出量を相殺するプロジェクトをサポート)ならびに再生可能エネルギー(食料や農産廃棄物からのガス生成)に由っている。いわゆるグリーン・エネルギーを供給する会社だ。
・同社は、5年前に創立され、現在170万世帯の顧客を持っている。そのモットーは、「エネルギーをより単純に、より安く、よりグリーンにする」(making energy simpler,cheaper,greener)だそうだ。
・バルブ・エネルギー社の躍進を見ても、ヨーロッパのエネルギー・グリーンが本格化しつつあることが見て取れる。その一端は、すでにシェル・エネルギーを例にとって紹介した(室田、2019年)。
・日本の場合、この冬の電力不足で、「新電力」各社が窮地に陥ったといわれ、、上の状況とはかなり異なっている。これは制度設計に問題があったとはいえ、残念なことだ。どうも日本政府はグリーンに、あまり本気ではないような感じがする。
・そうした中でちょっと気になる記事が、またもフィナンシャルタイムズ紙に出ていた(3月1日)。それによると、香港基盤の再生可能エネルギーファンド(Shift Energy)が、日本政府を、予期せぬFIT(再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度)の切り下げを理由に、香港と日本との間で結ばれた投資協定に基づき、調停を求めたというのだ。
・たしかに、急激なFITの低下は、多くのソーラー発電企業を破産に追いやった。
・日本政府は、この香港ファンドの訴えを公開させないよう、様々な手段を講じたが、同ファンドの態度を変えることはできず、この件は、国際調停の場に引き出される可能性が高くなったそうだ。
・これは日本にとってはよいことだろう。もしもFITの切り下げで損害を被った企業が国内企業だけだったら、訴訟などは論外で、”泣き寝入り”に終わったからだ。国を相手に裁判沙汰にでもすると言ったら、取引銀行などからすぐにストップがかかるからだ。
・これまで行政が恣意的に、FIT価格などを変えて、民間企業に迷惑をかけても、文句が表に出ることはなかった。日本では、お上(オカミ)が強かったからだ。しかし国際化時代には、こうした常識は通用しない。そのことを、日本の行政は学ぶ必要がある。
・最初のFT1000に戻るが、再生可能エネルギー関連の新興企業が羽ばたくためには、それを育てるための制度がきちんとしている必要がある。今回の香港ファンド事件は、日本にとっても、エネルギー行政の透明化を進めるために、良い機会になったのではないか。
(参考)
・Maxine Kelly,"FT1000:the fifth annual list pf Europe's fastest-growing comapnies",FT,March 2.,2021
・Leo Lewis,"Hong Kong energy fund sues Japan in groudbreaking case",FT,March 1,2021
・室田泰弘、「エネルギー業界のIphoneモーメント」、エネルギー資源論説、2019年、40-6