温暖化問題とハイテク企業の役割
2021.03.27
・温暖化問題は、今日世界経済の直面する重要課題になっている。なぜなら地球の平均気温が2.5度程度上昇すると、地球の環境システムがティッピングポイントに達して、現在の安定領域から逸脱する可能性があるからだ。たとえば太平洋南北熱塩循環が弱まると、西欧の温暖な気候が維持できなくなる。この現象を扱った「デイ・アフター・トゥモロー 」という映画を見た人も多いだろう。
・ではIT時代に、温暖化問題に対してハイテク企業は何ができるのだろうか。これに対しては、やや皮肉な答えが返ってくる。
・2000年代初めにシリコンバレーでは、風力やソーラー発電に取り組むスタートアップが群出した。これは「クリーン・テック1.0」と呼ばれている。
・ところが、風力やソーラーに関しては、中国が本気で生産量を拡大し、コストを大幅に下げたため、こうしたスタートアップはそれに対抗できなかった。たとえばA123システム(のちに中国企業に買収される)や、ソリンドラ(Solyndra)などが倒産に追い込まれた。
・しかしシリコンバレーは、この課題に再び挑戦しつつある。それは、「クリーン・テック2.0」と呼ばれている。パリサミットが開かれた2015年にビルゲーツはアマゾンのベソスやバージンのリチャード・ブランソンと語らってクリーン・エネルギーのためのファンドを設立した(BEC、Breakthrough Energy Coalition)。これは2050年までに温暖化ガスのゼロエミッション(ネットベース)を目指している。
・「クリーン・テック1.0」は失敗に終わったが、例外として誰もが認めるのがイーロン・マスクのテスラだ(EV)。ソーラーや風力は画期的技術というより、生産量拡大によるコスト削減が市場獲得に有効だったが、EVは全く新しい技術で、中国が追いつくことはできなかった。ちなみにイーロン・マスクは最近、CO2回収技術の達成に1億ドルの賞金提供を申し出た。これはXプライズ財団のプロジェクトで、大気中もしくは海中から直接CO2を抽出し、環境にやさしいやり方で永続的に除去する技術の実現が目標だ。2050年時点で、10ギガトン/年のCO2回収を目指している。
・CO2回収といえば、アミンを溶剤として使ったCO2回収システムのコストが2割ほど低下する技術のめどがついたようだ。
・IT企業は、直接温暖化に立ち向かうのではなく、そこで稼いだ豊富な資金を温暖化対策に用いることにより、IT社会と温暖化問題解決の両立の方向を探っているようだ。
(参考)
・Henry Sanderson,"Clean tech 2.0:Silicon Valley's new bet on start-ups fighting cliamte change",FT,March 25,2021
・Robert Service,"New generation of carbon dioxide traps could make carbon capture practical",Science,May 24,2021
・Xprize.org/prizes/elonmusk