· 

2030年日本温暖化ガス46%減の意味

2030年日本温暖化ガス46%減の意味

  2021.04.25

・日本は最近開かれた気候変動に関する首脳会議で、2030年度に2013年比温暖化ガス46%削減を表明した(日本経済新聞、2021.04.23)。

 

・さてこれをどう実現するか。当方のEYE_CO2シミュレータを用いて検証してみよう(本ソフトは2021年4月発売)。このシミュレータは2050年までの日本マクロ経済、産業構造、エネ需給とCO2排出量が計算できる仕組みとなっている。当然2030年のCO2排出量も求められる。

 

・BAUケースの結果は下の表に示した通りだ。2013年のCO2排出量(エネ起源)が337MTCだから、その54%値(46%削減)は181MTCとなる。これが2030年の排出目標となる

 

・当方のシミュレータによる2030年のCO2排出量(BAUケース)は267MTCだから、目標達成のためにはあと86MTC(267-181)ほど削減すればよいことになる。

 

・おそらく読者は、ここで疑問を持つだろう。それはなぜ2030年のCO2排出量がBAUケースで267MTCに減るのかということだ。これには若干の説明が要る。

 

・このシミュレータでは、アウスベル効果をモデルに組み込んでいる(これはマクロ経済や産業構造を組み入れることで可能になる)。アウスベルはアメリカの環境学者で、2000年代半ばに、先進国の物的消費量が頭打ちになったことを見出した。実際日本のエネルギー需要実績は2005年をピークに徐々に低下を続けている。

 

・その原因はいろいろ考えられるが、一番大きなのはIT革新の浸透だ。これによって物的消費の伸びが大幅に抑えられたからだ。

 

・これを具体的にいえば、Iphoneモーメントの実現ということだ。アメリカの記者シチョンは1991年のラディオシャック(電気製品の安売り屋)の広告を見ていて、そこに表示された15品目のうち、13品目までがIphoneで置き換えられていることを見出した(マカフィー、p127)。

 

・その内容は、ステレオ、AM/FMクロックラジオ、耳に差し込むイヤホン、電卓、カレンダー、ゲーム機、VHSビデオレコーダー、ケータイ電話、CDプレーヤー、留守電、カセットテープなどである。これ以外にデジカメもこのリストに入れることができるだろう。これらのすべての機能がIphoneには含まれており、しかもその性能は過去の同機能製品を上回る。

 

・これを見ると日本のオーディオメーカーが皆つぶれていったわけがよくわかる。大がかりなステレオ、ビデオレコーダー、クロックラジオ、デジカメなどを今買う人はほとんどない。こうした商品があの小さなスマフォに凝縮されてしまったからだ。

 

・たとえばステレオ一台の消費電力をIphoneのそれと比べてほしい。Iphoneが小さな電池で何時間も持つことを考えれば、その意味は明らかだろう。つまりIphoneモーメントはエネルギー消費量を減らし、結果としてCO2排出量の削減に役立つことになる。

 

・こうしたIT革新のインパクトが社会に浸透するにつれ、エネルギーを含む物的消費水準は低下し始める。CO2削減を狙うなら、この効果を利用しない手はない。それがEYE_CO2シミュレータの計算結果(BAUケース)の意味するところだ。このシミュレータはすでに公開されているので、それを使えば誰でもこの結果を追試できる。

 

・CO2削減に話を戻すが、次に取るべき手段は、石炭火力の全廃だ。これは(電力の需要減を考慮すれば)、原子力を増やさなくても可能になる。そしてその次には、いわゆるエネルギー多消費型産業(鉄鋼、化学、セメント、紙パなど)の海外移転だ。わざわざ国内で生産したエネルギー多消費型製品を、輸出することで、日本のCO2排出量を増やすのは意味がない。その分だけ、日本はCO2ペナルティを支払うことになるなるからだ。

 

・エネルギー多消費型産業はそろそろ内弁慶のスタイルを捨てた方がよい。それが生き残る唯一の道だろう。

 

(参考)

・日本経済新聞、「日本、温暖化ガス46%減」2021.04.23

・アンドリュー・マカフィー、「More from Less」、小川敏子訳、日本経済新聞出版、2020

・Jesse H. Ausbel,"The Return of Nature",Breakthrough Journal,No.5,Summer,2015

・Steve Cichon,"Everything from this 1991 Radio shack Ad you can now do with your phone",Huffington Post,Dec.7,2017