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サイバーテロを理解する

サイバーテロを理解する

  2021.06.19

・最近のコロニアル・パイプラインに対するランサム攻撃を見ても、サイバーテロは身近な問題となっている。

 

・その現状を理解するには、デービッド・サンガーの「完全な爆弾」(the Perfect Weapon、)がお勧めだ(これを書いてから知ったのだが、邦訳がある、「サイバー完全兵器」、高取芳彦訳、朝日新聞出版)。

 

・著者のデービッド・サンガーは、ニューヨークタイムズのワシントン特派員で、ピューリツア賞を複数回、チームの一員として受けている。また看板記者としてトランプ前大統領に対するインタビューなどもこなしている(本書にも収録,p210-212)

 

・日本でいえば、日本テレビの清水潔氏に相当する。氏は桶川事件の真相を暴いたことで有名だが、要するに調査報道をきちんとやるという姿勢が、両者に共通している。

 

・サンガー氏の本を読むと、サイバーテロの現実が恐ろしいほど迫ってくる。いくつか例をあげる。

 

 *ロシアがUSBメモリーを使って、アメリカのペンタゴンのネットワークに侵入(2008年)。

 

 *アメリカとイスラエルがスタックネット(Stuxnet)を使ってイランの遠心分離機を暴走させる(2010年)。イランはこれに対抗して、アメリカのダムの制御を奪って水害を起こそうとするが失敗。サウジへのサイバー攻撃は成功(2012年)

 

 *エドワード・スノーデンがNSA(米国家安全保障局)による国際的監視網(PRISM

)の存在を告発(2013年)。NSAがグーグルからどうやって情報を抜き取ったかのラフスケッチは面白い(原書p78)。

 

 *アップルのクックは、iPhoneにバックドアを付けよという要請を拒否。このため、FBIはイスラエル企業(推定)に、iPhoneをハックするソフト開発を約1.3億ドルで依頼(原書p98)。

 

 *グーグルシステムに中国のハッカーが侵入(2009年,原書p106)。中国はアメリカの人事管理局(OPM,office of personal management)のデータを入手し、2,200万人のアメリカ人に関するデータを入手(2014年)。

 

・以上はほんの一例だが、それ以外のケース(例:アメリカ民主党本部へのロシアの浸透)などに関しては、本書をお読みいただきたい。

 

・さて日本の対処はどうだろうか。

 

・スノーデンを扱った映画に日本の横田基地が出てくる(かれはそこにも勤務)。それを見る限り、日本はサイバー戦争の後進国だ。

 

・サイバー戦が核抑止と異なるのは、恐怖による均衡(抑止)がないことだ。つまり誰がいつどのようにして攻撃したかが、はっきり証拠づけられない。また核のように大がかりな軍備が必要なく、要は優秀なハッカーとパソコンさえあれば、大国を相手に喧嘩を売ることもできる。

 

・気になるのは、日本の偉いさんのセキュリティ感覚の低さだ。おそらく平気でスマフォを使って内緒話をしているのではないか。スマフォが経由する通信ファイバーが、結節点で、情報を抜き取られているのは、現代的常識なのに。

 

(参考)

・David E.Sanger,The Perfect Weapon,Broadway Books,2019