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温暖化問題と炭素税の効果

温暖化問題と炭素税の効果

  2021.07.17

・BPのチーフエコノミストのスペンサー・ディールのペーパーを読んでいたら、面白い箇所にぶつかった。

 

・彼の説明によると、

 *2020年の世界エネルギー需要は前年に比べ4.5%低下し、CO2排出量は6.3%減少した、

 *これは炭素税等価にすると、1,400ドル/トンに相当するという。

 

・1,400ドルが妥当な試算かどうかは別にして、現在のEUの炭素排出枠価格が60ユーロ/トン程度だから、この水準は約20倍となる。

 

・よくエコノミストは、温暖化問題の解決に価格メカニズムを利用すべきだという。しかし、この水準(現在の20倍)の炭素価格上昇を続けないと、2050年にCO2排出量大幅削減が可能にならない。つまり温暖化防止のためには、価格に頼るだけでは十分ではないと言うことになる。

 

・ちなみに、価格メカニズムと温暖化問題の関係に関しては、Spearing論文2)が詳しい。彼による価格メカニズム利用の問題点は、

 

 ①エネルギー市場は、原油、電力、再生可能エネなど様々に分かれており、相互に関連はするものの、単純な代表価格は存在しにくい、

 ②新技術がからむので、そのコストや価格には不確実性が高い、

 ③化石から再生エネへの転換には、フランクナイト流の不確実性(chaotic)が存在する、

 ④温暖化問題に関しては、自然と人間との共生という基本問題があり、これを”価格”で扱うことは基本的に困難、などである。

 

・ではどうすればよいか。経済の仕組み、そのものを大幅に変える以外にない。筆者は、IT革新こそがその原動力になると考える(室田4))。

 

・日本の場合、役所や識者はマクロ経済や産業構造を変えずに、エネルギー構造だけを変えることで、CO2排出量の大幅削減を図ろうとしている。たとえば化石燃料の代わりに水素を使うというのはその一つだろう。

 

・問題は、日本のエネルギー政策には、温暖化防止だけでなく、柔軟性(レジリエンス)という目標も必要なことだ。21世紀になって、世界の政治情勢は難しい時期に入ってきた。中東から大量の水素をタンカーで日本に運ぶというオプションが、今後も問題なく続くと考えたら、それは楽観的に過ぎよう。

 

・この意味で、①マクロ経済や産業構造を大きく変えて、脱エネルギー依存型にする、②EVやソーラーを中心とするエネルギー供給構造の転換は、日本にとって必至の課題だろう。当方のシミュレーションはその可能性を示している。

 

・日本で余り議論されていないのは、こうした転換が電力やガスなど既存のエネルギー供給産業の構造を大きく変える可能性だ。おそらく現在のエネルギー供給企業は、このままでは生き残れない。ちょっと極端に言えば、第二次大戦の終結が陸海軍の終了を導いたのと同じことが生じるかもしれない。こうした急激な変化を、現代風に言えば、iPhoneモーメントという。それは意外に近いかもしれない。その場合、エネルギー供給産業の守護神であるお役所も余り必要視されなくなるかもしれない。

 

(参考)

1)Spencer Dale,"Energy in 2020:the year of COVID",July,2021

2)Joe Spearing,"We need to look for the market to beat climate change",Political Economy Club Prize,FT,July 14,2021

3)Rocjelle Toplensky,「EUの国境炭素税、世界を動かせるか」,WSJ,July 17,2021

"Europe's Carbon Prices are going Global"

4)室田泰弘、「2050年の日本経済とCO2排出量:IT革新のインパクト」、エネルギー経済シンポジウム、2020年1月