テスラとデロリアン
2021.09.18
・サイクロン型掃除機や羽なし扇風機で有名なダイソンがEV(電気自動車)に進出を試みたことはよく知られている。
・最近ダイソンが自伝を書き、なぜ彼が、EV(電気自動車)への進出をあきらめたかが明らかになった(中島聡氏のブログで教えられた)。
・それによると、掃除機などの開発途上で、高性能バッテリーの開発に成功し、それを利用してEVへの進出を考えた。そしてSUV型のプロトタイプを作り上げたという。
・それは7人乗りで、車高が上下でき(シトロエンSMを思わせる)、快適な車内環境の実現にはダイソンの技術がフルに使われたという。
・EVへの進出をあきらめたのは、生産量が少ないこととと新規メーカーであるため、パーツメーカーの請求書が高すぎたことによるという。実際、クルマの販売価格は21万ドル(約2,200万円)にもなり、これでは勝負にならないとして、進出をあきらめたという。
・いまやEVの旗頭であるテスラのマスクがこれに関して、「製造は本当に難しい」とツイッターでつぶやいたそうだ。
・このつぶやきから思い出すのは、デロリアン(DMC-12)のことだ。デロリアンといってもクルマに詳しくない人にはわからないかもしれないが、映画バックトゥザフューチャーに出てきた未来車といえば、目に浮かぶだろう。
・この車は、GMの副社長だったジョン・デロリアンが1975年に独立して、自らの理想とするクルマを作ろうとした結果である。
・デロリアンは、映画に使われるほど先進的だった。しかし会社は資金不足に悩み、結局1982年に解散する。その間、資金集めにデロリアンが麻薬に手を出したなどのスキャンダルが見舞われた。この間の事情は、最近の映画、「ジョン・デロリアン」(2019)のメイン・テーマとなっている。
・マスクのテスラが電気自動車に進出を試みたとき、既存の自動車メーカーは、「どうせうまくいかない」と冷笑していた。それはデロリアンを見てもわかるように、新規に自動車メーカーを立ち上げるのが、どんなに困難かを熟知していたからだ。ダイソンの幻のEVはまさに既存の自動車メーカーの思惑通りになった。
・最近アップルのEVプロジェクトはどうなるだろうか。iPhoneのように、設計を自社で行い、製造はメーカーに任せるというスタイルはクルマに関してはうまくいかないかもしれない。
・その意味で、マスク率いるテスラのやったことは、設計から生産まですべて自社でこなしたという点で、画期的である。その背景には、イーロン・マスク自身が、EVや自動運転ソフトの内容を熟知し、さらに工場のレイアウトまで自身で手掛けることができたという、”特殊要因”が大きく効いている。
・マスクのもう一つの作品、スペースXもそうだが、IT革新は、経済や産業の構造を基本的に変えてしまう。イーロン・マスクはその先端を走っているといえよう。
(参考)
・FastCompany,"The Inside Story of Dyson's $700 million quest fo design an electriv car",Aog.30,2021
・James Dyson,Invention:A life,Simon & Schuster,2021
・中島聡、”Life is Beautiful”、2021.09.14