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OpenAIの進歩とネット空間における自由

OpenAIの進歩とネット空間における自由

  2021.09.25

・OpenAIは2015年に設立された人工知能研究組織で、イーロン・マスク等によって2015年に設立された。ディープマインドの競争相手と目されている。設立目的は人類全体に寄与するような人間と親和性の高いAIを開発すること。

 

・マスクは理事を2018年に辞任したが、資金供与は続けている。辞任理由はテスラで開発中の自動運転ソフトとの利害衝突の可能性があるため。なお2019年にマイクロソフトがOpenAIに10億ドルを供与し、優先パートナーとなった。

 

・OpenAIは、2020年にGPT-3(Generative Pretrained Transformer)を発表した。これは数兆個の言葉をインターネットから取り出し、それで訓練した言語モデルだった。

 

・さらにそれをもとにして、本年8月Codexを発表した。これはプログラムコードを自動生成するAIだ。ギットハブのCopilot(コードを書く際に、コメントや関数名などからコードを自動作成してくれる仕組み)の基盤になるという。なおこのCopilotはVSCode(マイクロソフト社開発のパイソン用エディター)の拡張機能として提供される。

 

・ちなみにギットハブ(GitHub)とは、プログラマーが共同してコードを書くためのネット上のインフラである。マイクロソフトが2018年に買収したが、そのサービスはオープンソースとして提供されている。

 

・OpenAIのこのやり方は賢い。自然言語は、表現の自由度が高く、これをAIでカバーするのは大変だ。しかしプログラミング言語は論理の塊だから、AIにとって扱いやすい。これはAIがうまくいったケースであるチェスや碁と同様だ。

 

・Codexの動きは、ユーチューブで公開されているのでそれを見てほしい(Open AI Codex Live Demoで検索)。その内容は、プログラマーにはおなじみの、”Heloo, World!”などが出てきて面白い。まだ性能は大したことはないようだが、その意味するところは大きい。

 

・ハーバード大学ロー・スクールのローレンス・レッシグは、サイバー法学の権威だ。彼は、”コードは法律である”(Code is Law)という論文を2000年に発表した。

 

・その内容は、以下の通り。

 *いつの時代にも、自由の脅威となる規制が存在した。

 *アメリカの独立を実現した人々は、政府による規制をおそれた。

 *ジョン・スチュアート・ミルは、社会的規範による規制をおそれ、自由論を書いた。

 *サイバー空間にも規制はある。それは”コード”だ。”コード”とは、サイバー空間を実現するソフトとハードだ。

 

・レッシグが指摘するように、現代のわれわれは”コード”で、その動きを決められている。インターネットで商品を買うにも、また資金の移動にも、すべてコードがそれを実現している。しかしその内容について知る者は少ない。つまりわれわれは、”知られざる神(コード)"によってコントロールされているともいえる。

 

・OpenAIに話を戻すが、”コード”が、AIによって自動的に生成されるようになると、コードによる規制は、人間のチェックなしに、自動的に進化していくだろう。

 

・もちろんCodexが実現しようとしているプログラム・コードと、実際のサイバー空間を規定する様々なルールとの間には大きなギャップがある。かといって、プログラムコードの自動作成が、暗黙の規制をわれわれに強いる日が来ないとはいえまい。

 

(参考)

・John Thornhill,"Code-generating software can spur a cognitive revolution",FT,Sept.16,2021

・Lawrence Lessig,"Code is Law",Haravard Magazine,2000.01.01