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IT革新と日本沈没

IT革新と日本沈没

 2021.10.17

・久しぶりに「日本沈没」がテレビドラマ化されたので、ちょっと楽しみに見てみた。しかし相変わらず、若手官僚が危機に目覚めるという、オールドパターンが基調になっており、途中でみるのをやめた。

 

・いま世界はIT革新のさなかにいる。台湾のタンさんの例を挙げるまでもなく、IT技術に特化した若い人材をリーダーに登用しないと、変化の速い世界では生き残れない。そういえば、アメリカではペンタゴンが鳴り物入りでソフトの責任者に据えたニコラス・チャリアン氏が急に辞任し、話題を呼んでいる。彼は37才、フランス生まれで、AIの天才だが、大した学歴はない。しかし時代は、軍隊でさえ、こうした人物をIT戦略の中心に据えなければならないほど、変化のスピードが早まっている。

 

・日本は、残念ながら、この変化に追いていない。古くは1980年代の、「第五世代コンピューター・プロジェクト」の失敗から始まって、最近では「e-Japan戦略」(2001年)、「e-Japan戦略II」(2003年)、「IT新改革戦略」(2006年)、「i-Japan戦略2015」(2009年),「新たな情報通信技術戦略」(2010年)、「世界最先端IT国家創造宣言」(2013年)、「世界最先端IT国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」(2017年)などが官主導でぶち上げられてきた。タイトルはすごいが、内容が全く伴わない。

 

・この結果日本はIT後進国に成り下がった。スイスのIMDが発表した世界のディジタル競争力ランキングによると(2020年10月)、一位はアメリカで日本は27位に過ぎない。ちなみに韓国は8位、台湾11位であり、日本より上位だ。

 

・なぜこうなったか。これは、IT人材の活用という視点からみるとわかりやすい。日本は多くのIT天才をつぶしてきた。Winnyを開発した金子勇氏が逮捕され(のちに最高裁で無罪確定)、そのためにどれだけ日本のピアツーピアソフトの開発が遅れたか。もっと古い話では、インテルで最初のCPU4004の開発に携わった嶋正利氏が日本に帰国しても、CPU開発のチャンスを与えられなかったことなどが記憶に残っている。

 

・なぜこうなっているかに関しては、シリコンバレー在住の中島聡氏の説明がわかりやすい。彼は日本の失敗を、ITゼネコンがはびこっているからだという。以下彼の著作から引用(p176) 

 

 「*政府から受注したITゼネコンには自らソフトウェアを書く人・かける人がおらず、仕様書を改定下請けに丸投げするだけ。

 

  *その下請けは、大学でちゃんとソフトウェアの勉強をしていない文系の派遣社員を低賃金で雇い、劣悪な労働環境でコードを書かせている。

 

  (中略)

  

  *ITゼネコンには役所からの天下りが、下請けのソフトウェア会社にはITゼネコンの天下りが役員・顧問・相談役として働いており、ほとんど仕事をせずに「口利き」だけをして高級をもらっている。」

 

・この構造を壊さない限り、日本がIT先進国化することはない。

 

・実はソフトを書くことは、本当はとても楽しいことなのだ。これはピアノ弾きが一日中ピアノを弾き、絵描きが、キャンバスに夢中になると同じだ。これを日常体験化しないと、日本からはよいソフト屋が出てこない。学校でタブレットを配る代わりに、ラズベリーパイ(お菓子ではない、内容について知りたい人はウェブで調べてほしい)を机に放り出して置いたらどうか。興味ある子が触り始めるだろう。

 

(参考)

・中島聡、「ニュー・エリートの時代」、P176、KADOKAWA、2021

・リーナス・トーパルズ、デービッド・ダイアモンド、「それがぼくには楽しかったから」、風見潤訳、中島洋監訳、小学館プロダクション、2001

・岸宣仁、「『異能』 流出」、日経BP、2002

・大西康之、”ディジタル政府の岩盤「ITゼネコン」”、FACTA、2021年1月号

・Katrina Manson,"US has alerady lost AI fight to China, says ex-Pentagon software chief",FT,Oct.11,2021