サイバー戦争とイスラエル
2011.11.06
・最近アメリカ政府がイスラエルの軍事スパイウェア企業4社を貿易上のブラックリストに載せたという記事がフィナンシャルタイムズ紙に掲載された。
・米国政府によると、こうした企業はジャーナリストや人権活動家の電話ロックを解除するソフトを提供していたという。
・しかしアメリカ政府とこうしたイスラエルのサイバー企業との関係はなかなか複雑だ。以下この分野の第一人者デービッド・サンガー記者の著作を利用して、この間の事情を説明する(同書、p129-)。
*2013年にアメリカ国家安全保障局(NSA)およびCIAに勤務していたエドワード・スノーデンが内部文書を公開し、NSAが国際的監視網(PRISM)を構築し、インターネット通信から情報を吸い上げていたことを暴露した。
*これを受けて、まずグーグルはすぐシステムにカギをかけ、また自前の光ファイバー網を設置した。
*アップルのクックの方針は明確だった。それは「利用者がアイフォーンに保存したデータを守ること」(p143)。
*こうしてクックはオバマ政権との戦争に踏み切ることになる(2014年)。
*クックはアイフォーンのデータを自動的に暗号化するように、ソフトを更新した(2014年)。これによって外部からデータを読めなくした。
*2015年にパキスタン系アメリカ人による銃乱射事件があり、犯人はアイフォーンを使っていたことが判明した。
*米国司法省はこれを受けて、アイフォーンのロック解除技術の公開をアップルに迫ったが、アップルはこれを拒否。
*FBIはイスラエルの企業にアイフォーンのハッキング技術開発を注文し、これを用いてアップルのロックを外した。そのコストは”すくなくとも130万ドル”とみられている(同書p156)。
・これで最初に戻るのだが、アメリカ政府がアップルとの戦いで、イスラエル企業の助けを借り、彼らの作ったソフトを使ってアイフォーンのロックを外す。そうしたソフトは、世界中に広まり、今度はジャーナリストや人権保護団体などの通話傍受に使われるようになる。それを危惧したアメリカ政府が関連する何社かを貿易上のブラックリストに載せた、というのが今回の顛末のようだ。
・サイバー戦争の武器は、こういう形で世界に広まっていく。これはイランの核開発計画のとん挫を狙って開発されたスタックスネットでも同じだ。ここにサイバー戦争の武器の特殊性がある(すぐに世界に広がって相手側が利用し始める)。この点を理解しないと、来るべきサイバー戦争に生き残るのは、難しい。
(参考)
・Mehul Srivastava & Aime Williams,"US puts Israeli spyware firm NSO Group on trade blacklist",FT,Nov.04.2021
・朝日新聞、”IT機器「弾圧に悪用」”、2021.07.26
・Leo Kekion,"Israel's Cellebrite linked to FBI's iPhone hac attempt",BBC,23March,206
・デービッド・サンガー、「サイバー完全兵器」、高取芳彦訳、朝日新聞出版、2019
David Sanger,The Perfect Weapon,Broadway Books,2019