半導体不足の原因
22.02.20
・テクノロジー情報サイトのギガジン(Gigazine)が、半導体不足についての面白い記事を載せていた。
・出所は、IEEEスペクトラムに載った記事だ。ちなみにIEEEはアイトリプルイーと読むが、アメリカの電子・電気学会で世界最大の規模を誇る。
・この記事のポイントは、半導体のサプライチェーンが特殊な形をしていることだ。すなわち半導体部品が生産されて顧客の元に届くまでに最長5万キロの距離と70もの国境を超える道をたどるという(グローバル・半導体アライアンスによる)。具体的にはシリコン原料や薬品はアメリカから台湾に運ばれ(1.2万キロ)、ついでシリコンウェーハー(インゴット)化されたものがマレーシアに送られ(0.3万キロ)、モジュール化はミュンヘンで行われる(1万キロ)、それが中国でOEM化される(他社ブランドの製品化、0.8万キロ)、そして最終製品はカリフォルニアに送られる(1万キロ)ということになる。
・この中で特に重要なハブは、オランダのASMLと台湾の3社(TSMCなど)で、前者は極小回路をシリコンウェーハーに印刷する極端紫外線リソグラフィ(EUV)製造をほぼ独占している。後者は最先端の5ナノから7ナノ半導体を生産する。
・この記事によれば、ゲーム機から高級車のポルシェまで、半導体確保には、このサプライチェーンに頼らざるを得ず、それはぜい弱だという。かといって、仮にアメリカ本体にこのすべての工程を集約した場合、1兆ドル以上コストがかかり、半導体価格は65%程度上昇するから、不可能に近い。
・いわゆるエコノミストの言う国際分業は、労働コストの平準化を狙ったものだ。グローバル化によるサプライチェーンの世界化はこれの反映と言える。しかし半導体の場合はそれとは異なる構造を持つようだ。
・日本もTSMCを誘致し、国内での半導体生産を目指している。しかし問題は半導体を安定的に手に入れるためには、上にあげたサプライチェーンのすべてを抑える必要があるわけで、実際上不可能に近い。
・その意味では、今回の半導体不足に対するEVメーカのテスラの対応は見事なものだった。不足するのがいわゆる汎用品であったため、クルマの設計を変えて他の汎用品で代替できるようにしたようだ。このためテスラの販売台数は昨年も増加した。
・日本にはASMLもTSMCもない。かといってテスラもいない。TSMCが日本に持ってくるのは20ナノといった時代遅れの技術だ。さてどうしたものだろうか。
(参考)
・Gigazine,”「なぜ半導体が不足するのか?」など半導体を取り巻く問題がよくわかる5つの図”,2020.02.16
・Mark Harris,"These 5 Charts help Demystify the Global Chip Shortage",IEEE Spectrum,14,Feb.,2022
・Willy Shih,"Everybody now wants Supply Chains to be 'resilient.'It won't be easy-or likely",WSJ,Dec.10,2021
・経済産業省、「半導体戦略」、2021年6月