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ウクライナ戦の基本戦略:WI(相互依存の武器化、weapoinzed interdependence)に関して

ウクライナ戦の基本戦略:WI(相互依存の武器化、weapoinzed interdependence)に関して

 2022.04.23

 

・ウクライナ戦も膠着状態で、一般人の被害が広がっており、痛ましい限りだ。

 

・今回の戦争における欧米側の基本戦略はどのようなものか。ヘンリー・ファレル(ジョンズホプキンズ大学)とアブラハム・ニューマン(ジョージタウン大学)の共著論文、「相互依存の武器化、グローバルネットワークが国の強制力を実現する」が参考になる。まず論文内容を紹介する。

 

 *基本認識:IT革新の現在、世界はネットワークで結ばれている。ネットワークにはハブ(中心点)とそれに従属するノード(結節点)がある(ネットワーク理論に関しては、参考文献に掲げたダンカン ワッツ本が参考になる)。

 

 *世界ネットワークの例としては、金融ネットワークであるスイフト(SWIFT)や、インターネットのICANN(Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)がある。ICANNはわれわれがインタネットを使うとき、ドメイン名を登録する団体だ。こうした世界ネットワークにおいて、アメリカは優越的地位(つまりハブ)を保持している。

 

 *この優越性を戦争に役立てない方はない。それには2つのやり方がある。第一は、情報収集効果(panopticon effect)であり、第2は窒息効果(chokepoint effect)である。ハブには情報が集まるため、ハブの持ち主はそれをうまく活用できる(情報収集効果)。また情報の流れはハブを経由するので、望ましくない流れを遮断することができる(窒息効果)。

 

 *今回のウクライナ戦を見ると、アメリカをリーダーとする欧米側がこのWI(相互依存の武器化)をロシアに対して使っていることがわかる。たとえばロシアに対するSWIFT遮断の背景にはこうした論議があったわけだ。また情報収集効果の実例に関しては、デービッド・サンガー本が詳しい。

 

 *またアメリカがいかにして、SWIFTやICANNにおける優越性を確保してきたかが、ファレル・ニューマン論文には具体的に述べられており、興味深い。

 

・一般論にもどるが、技術革新は戦争の基本戦略を変える。たとえば第二次世界大戦のときには、飛行機と戦車と歩兵を通信で結ぶことにより、相手を迅速にたたく電撃戦がドイツのグデーリアンによって考案された(彼はエリート参謀でありながら、通信や兵站も担当した経験がある)。それがドイツの初戦でのスピーディーな勝利を導いた。

 

・今回の場合、WI(相互依存の武器化)がどの程度有効に働くかは、まだわからない。しかしIT技術を背景とした、新戦略であることは間違いない。ここで注目すべきはロシア側が、従来タイプ(エネルギー・ネットワーク)の要所を抑えていることだ(ノードストリーム)。したがって今回の戦いは、従来型ネット(エネルギー)と新しいネットワーク(情報)の優劣をめぐるせめぎあいと言えるかもしれない。

 

・日本に戻るが、本稿を書くに際して、インターネットで”weapoinzed interdependence 日本語”で引いてみた。残念ながらヒットはなかった。これは何を意味するか・・・。

 

・役所や大企業など日本の既存組織は、新技術に対する感受性はあまり高くなさそうだ。古い話だが、第二次大戦直前に日本陸軍は現代戦の実相を研究するため、山下奉文中将等をドイツに派遣した(1940年12月)。この訪問において、山下中将等はグデーリアンから電撃戦のレクチャを受けている。しかしそれがその後の日本の戦いに役立った様子はない。今回の場合はどうなるだろうか。WIは単に物理的な戦争だけでなく、経済戦でも有効な戦略なのだが。

 

(参考)

・Henry Farrell & Abraham L.Newman,"Weaponized Interdependence:how global networlks shape state coercion",in D.W.Drezner,H.Farrell,A.B.Newman ed,The Use and Abises of Weaponized Interdependence,Brookings Institution,2021

・Mikhail Krutikhin,"Russia's Gzprom",in D.W.Drezner,H.Farrell,A.B.Newman ed,The Use and Abises of Weaponized Interdependence,Brookings Institution,2021

・Justin Lahart,"Globalization isn't unraveling. it's changing",WSJ,APR.

・ダンカン ワッツ、スモールワールド・ネットワーク、辻竜平、 友知 政樹 訳、

ちくま学芸文庫、2016

・グデーリアン、電撃戦 グデーリアン回想録、本郷健 訳、中央公論新社、1999

・David E.Sanger,The Perfect Weapon,Broadwaybooks,2019)。

 デービッド・サンガー、サイバー完全兵器、高取芳彦訳、朝日新聞出版、2019