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ウクライナ情勢と省エネの必要性

ウクライナ情勢と省エネの必要性

  2022.06.18

・ウクライナ戦争もなかなか終息への道が見えてこない。これから夏が過ぎ冬が近づくと、ヨーロッパのエネルギー需要増大期となる。これをどうしのぐのか。ドイツの環境関連シンクタンク、MCC(Mercator Research Insttutebon Global Commons and Climate Change)の研究者でIPCC報告書の著者でもあるフェリックス・クロイチッヒが、ロシアからのエネルギー輸入削減を実現するための具体策を論じているので紹介する。以下クロイチッヒ論文に従う。

 

・ロシアはEUのガスの約4割、石炭のほぼ5割、石油の25%を供給している。ロシアはルーブルで対価を支払わない国に対しガス供給を絞り始めている。またロシアやウクライナは穀物の輸出国でもある(世界の穀物輸出[大麦、小麦、メイズ]の1/3を占める)。どうすればロシアの供給削減に対抗し、同時に温暖化問題への対応が可能だろうか。目標をロシアからの輸入を一年以内に2割から6割削減することに置く(これは同時に温暖化ガス発生量も減らすことにつながる)。

 

・必要なのは、エネルギー需要の削減、飼料生産を食料生産に転換することだ。うまくやれば需要削減は有効だ。たとえば水不足で悩んだケープタウンは需要カットでうまく干ばつを乗り切った(2018年)。

 

・需要削減に関しては、輸送部門、業務・家庭部門、食料生産部門の動向がカギとなる。以下個別に見ていく。

 

・輸送部門

  *リモートワークの推進。

  *高速道路のスピード制限(これは特にスピード制限のないドイツの高速道路では効果的だろう)

  *都市中心部へのクルマの乗り入れ禁止(スペインのポンテペドラやベルギーのヘントで実施)。

  *自転車の活用:自転車が道路を走りやすくする(ドイツでは車の走行の65%は10キロ以内)。

  *短距離航空路線の汽車やリモートワークによる代替。

 

・業務・家庭部門

  *暖房の室温を2度C下げる。支障ない限り19度Cを室温の上限とする。

  *スマート電力計の導入。これによってユーザーに使用量を確認させる。

  *再生可能エネルギー源の活用。

 

・産業部門

  *建築基準法を改訂し、建築用鉄鋼需要を減らす。

  *古いビルを壊すのではなくリフォームして利用。

 

・食料生産部門

  *飼料生産の小麦等の穀物生産への転換。

  *食料生産に炭素税を課することにより、窒素肥料の利用を減らす。

  *植物性蛋白の利用。

 

・こうした転換策はエネルギー産業にとっては厳しい試練となる。彼らの既存投資が無駄になるからだ。しかし政府はエネルギー産業がすでに斜陽産業であることを示すべきだ。銀行や年金基金もこうした分野への投資を控えることになる。

 

・以上がクロイチッヒ論文の概要だ。日本は、エネルギー価格の高騰に対し、別なやり方で対応しようとしている。具体的には、補助金を出すことでガソリン価格を一定に保とうとしている。しかしエネルギー価格の高騰がかりにしばらく続くとするなら、むしろそれを容認し、需要削減へとつなげるべきだろう。そうでないと資源を海外に頼る日本の脆弱性が増すばかりだからだ。

 

(参考)

・Felix Creutzig,"Fuel crisis:slash demand in three sectors to protect economics and climate",Nature,13,June,2022

・木内登英、「ガソリン補助金で本当に家計は助かるのか」、NRI,コラム、2022.04.12