冬を迎えるヨーロッパのエネルギー需要
2022.09.10
・ウクライナ戦争も短期的に終わる見込みはなく、ロシアのプーチン首相はロシアと欧州を結ぶ主要ガスパイプラインのノルドストリームを開いたり、閉めたりして欧州を揺さぶっている。こうしたエネルギー制約の経済的インパクトはどのようなものか。以下、フィナンシャルタイムズ紙のチーフ・コメンテーターであるマーチン・ウルフの議論を紹介する。
・エネルギー価格上昇によって、ヨーロッパ諸国の交易条件(輸出物価/輸入物価)は悪化しつつある。これよって、イタリアのGDPは5.3%低下、ドイツのそれは3.3%低下すると見込まれる(キャピタル・エコノミクス:英国のシンクタンクの推定)。この値は1970年代の石油危機時のロスより大きい。最大の被害国はハンガリー、スロバキア、チェコだろう(例外は産油国のノルウェー)。
・またエネルギー価格の高騰はインフレを招く。これを通貨当局が抑え込もうとすると景気後退が生じることになる。
・IMF(国際通貨基金)によれば、ロシアからの天然ガスの供給が途絶えた場合、世界のLNG市場がうまく機能すれば、EUのGDPロスは0.4%程度にとどまる。そうでない場合は、ロスは1.4%から2.5%程度となる。
・EUはLNG確保の努力と同時に、需要削減(特に電力ピーク)にも力を注ぐ必要がある。
・以上がマーチン・ウルフの議論の紹介だ。では日本はどうなるか。エネルギー価格は高騰し、しかも日銀が低金利政策に固執しているため、大幅な円安が進みつつあり、これがエネルギーの国内価格を引き上げている(エネルギー関連の政府補助はいずれなくなるだろう)。
・これに関しては、現在われわれはEYE-2050シミュレータを用いて、その経済的効果(マクロ経済、産業構造ならびにエネ需給の動態)を計算中だ。その結果は、ウェブなどで発表する予定である。ここでは、特に温暖化対策に焦点を当てる。
・当方のポイントは、経済成長を前提とし、エネルギー需要の堅調な伸びを、グリーン水素などで賄うことで、CO2排出量削減を図るやり方は、ウクライナ戦やコロナショックで明らかになったバルネラビリティを無視しており、現実味に欠けるというものだ。
(参考)
・Martin Wolf,"Europe can --- and must --- win the energy war",FT,Sept.08,2022
・Gabriel Di Bella etal.,“Natural Gas in Europe, the potential impact of disruptions to supply”,
IMF,WP/22/145,July,2022