温暖化問題と地球システムのティッピング・ポイント
2022.09.24
・地球システムの(温暖化)ティッピング・ポイント(CTP:climate tipping points )とは、「地球のサブシステムが、その値(閾値)を超えると、ちょっとした変動で全く異なる状態に転じること」である。
・これは以下のようなメカニズムで生じる。
*ポジティブ・フィードバックの出現。
*ヒステリシス効果を持つ位相転換。
*解の分岐(bifurcation、システムの将来経路は、閾値におけるノイズで決まる)。
・これが問題になるのは、CO2濃度の上昇によって地球の平均気温が上昇し、これがティッピング・ポイントを超えると、地球システムの変化し、人間にとって住みにくい地球になってしまう可能性が高いからだ。
・現在は、工業化以前に比べ地球の平均気温は1.1度C程度上昇している。もしもCO2排出量を抑制できなければ、温度上昇はさらにすすむ。これによって地球システムは、ティッピングポイントを超え、それが様々な災害を人類にもたらすことになる。
・この問題に関する分析としては、英国エクセター大学レントン教授の論文(Lenton etal.2008)が有名だ。
・最近この論文の改訂版が発表されたので、紹介しておく(Lenton etal.2022)。以下論文の内容。
*このままでいくと、地球の平均気温は2030年までには1.5度C上昇する。これによってWAIS(West Antarctic Icesheet:西・南極氷床)やGrIs(Greenland Ice Shhet:グリーンランド氷床)はティッピング・ポイントを超え、氷床の崩壊(時間軸はWAISが2k年、GrIsが10k年程度)が始まるかもしれない。
*さらに地球の平均気温が1.5度Cから2度Cへ上昇すると、WAISとGrIsの崩壊は進み、また温水サンゴ(warm-water coral)は死滅し、永久凍土の融解が突如として生じる。LABC(アーミンガー海の対流)やAMOC(Atlantic Meridional Overturning Circulation:大西洋の南北循環)の停止や北方林(Boreal forest)の変化などが生じる。
*現在のところ、大幅な政策転換がなければ、2100年までに2.6度C程度の温度上昇が見込まれる。かりに地球の平均気温が3度から5度上昇すると、EASB(東・南極氷河下盆地)崩壊の可能性が高まる。またアマゾンの熱帯雨林も枯れることになる。
・以上がレントン等論文の簡単な紹介だ。興味のある方は、ぜひ論文自体を読むことをお勧めする。
・以下筆者の感想。
・温暖化問題における、ティッピング・ポイントの存在は厄介な問題だ。一端それを超えると、後戻りは難しくなる。それを起こさないために先進国日本がやれることは、CO2排出量の大幅削減だ。よくこの問題は、エネルギーシステム内だけで論じられる。その場合の解は、再生可能エネルギーや水素エネルギーへの転換だ。
・しかし目をエネルギー分野だけでなく、経済全般に広げれば、別な可能性が生まれる。たとえばIT革新を使って経済構造を変えれば、CO2排出量の大幅削減は実現可能だ。日本の場合、化石エネルギーを国内に持たないことが、この転換を容易にする。これによって日本は経済大国から環境大国に変身できる。問題は、こうした転換を担う人材や組織があるかどうかだ。
(海外出張のため、ブログは2回ほどお休みします)。
(参考)
・Lenton T.M.,Held H.,Kriegler E.,Hall J.W.,Lucht W.,Rahmstorf S.,”Tipping elements in the Earth’s climate system”,PNAS,Feb.12,2008,vol.1.05,no.6
・David I. Armstorng Mckay,Timothy Lenton etal.,"Exceeding 1.5C Gglobal warming could trigger multiple climate tipping points",Science,377,1171,9 Sept.,2022