日銀の将来
2022.11.05
・大幅な円安を迎え、日銀が転換を迫られる時期が近付いている。
・すでに半年前、ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)のウォン記者は、「金融市場は急激な円安とインフレ加速により、日銀がいずれ『降伏』を迫られると読んでいる」と述べたが、まさにその時期が迫っている。
・日銀側にすれば、黒田総裁の任期切れ(来年4月)を待って、徐々に方向転換(たとえばフォワード・ガイダンスの利用)を図ろうとするだろう。しかし市場はそれを待ってくれるかどうか。最近のフィナンシャルタイムズ(FT)の記事、「いつまで日本の中央銀行は世界市場の力を無視できるのか」はその点を鋭く突いている。先ほどのウォールストリート・ジャーナル(WSJ)の記事と今回のフィナンシャルタイムズ(FT)の記事は、見事な対をなしている。
・これらの記事の内容に関しては原典を当たっていただくとして、ここでは、少し昔のことを振り返ってみる。
「日本銀行は、消費者物価の上昇率二%を必ず達成する。その達成責任を全面的に負うという立場に立つ・・・それは当然就任して最初からの二年でございますが、それを達成できないというのは、やはり責任が自分たちにあるというふうに思いますので、その責任の取り方、・・・やはり最高の責任の取り方は、辞職することだというふうに認識はしております」
・これは最近の話ではない。日銀の岩田元副総裁が就任に際しての国会答弁である(2013年3月5日、衆議院)。
・それから十余年が経ち、ウクライナ戦とコロナショックのおかげで、インフレ率は徐々に高まりを見せている。問題なのはそれが賃金に反映されないことだ。
・それにしてもよく今まで、日本経済は大した波乱にも見舞われずに持ったものだと思う。いよいよ、そのツケが来始めている。
・今回の円安で、鈴木財務相は、「過度な動きあれば断固たる措置」をとると述べた(朝日新聞digital、2022年10月20日)。
・しかし当事者がこうした”過激”な発言をするときには、おおくは自信のない時だ。また古い話に戻って恐縮だが、太平洋戦争中にサイパン島が陥落したとき、当時の東条首相は次のように述べている。
「サイパンの戦況は、天のわれわれ日本人に与えられた啓示である。まだ本気にならぬか、まだ真剣にならぬか、まだか、まだか、という天の啓示だと思う。・・・真にわが底力を出すのは今だ。壁にいやというほど頭をぶつけなければわからないようでは困る」(吉松本、p245)。
・現代に戻るが、冗談ではなく、日本経済は曲がり角に立っている。投機筋にやられないよう、賢明で冷静かつしたたかな判断と決断が求められるが、今の当事者ではちょっと無理かもしれない。
(参考)
・Leo Lewis and Kana Inagaki,"How long can Japan's central bank defy global market forces",FT,Nov.4,2022
・吉松安弘、「東条英機暗殺の夏」、新潮文庫、1989
・Jacky Wong,「日本が迎えるインフレ『審判の時』」,WSJ,2022.06.24
"Japan faces its moment of truth on inflation"
・日本銀行、「『量的・質的金融緩和』の拡大」、2014年10月31日
・衆議院、第183回国会、議院運営委員会、第12号(平成25年3月5日)、2013年