サイバーテロと海底ケーブルの脆弱性
2022.11.12
・ウクライナ戦は、まだ先が見えない。そうした矢先、気になるニュースをフィナンシャルタイムズ紙で読んだ。
・それは、「プーチンは海底ケーブルが西欧のアキレス腱であることを知っている」と題するもので、著者は英国国防省の高官(退役)だ。
・彼は次のように述べる。
*先月末(著者注:10月)、シェットランド諸島(英国スコットランド先にある島)の海底ケーブルが2か所にわたって切断され、インターネットがつながらなくなった。
*これは単なる事故かもしれないが、そこにソ連の海底調査船が居たこと、最近のノードストリーム・ガスパイプラインの海底爆発などを考えると、ロシアの仕業である可能性が高い。
*旧ソ連の崩壊以来、NATOは航空宇宙、潜水艦の両面でソ連に対し優位を保ってきた。IT革新はこの差を広げた。しかしIT革新は他方で、宇宙やサイバー空間への進出コストを大幅に低下させた。敵国は、これをNATOに対する有力武器と考えている。
*現在国際インターネット接続の95%が海底ケーブル経由である。衛星による接続は、ほんのわずかだ。
*世界には約200のケーブルがはりめぐらされ、200TB/秒のデータが送られている。その太さは大型ホース程度だ。しかもチョークポイント(枢要点)はせいぜい10であり、きわめて脆弱である。
*これに比べて、ロシアや中国のような大陸国は、海底ケーブルへの依存度は小さい。また中国は一帯一路戦略の一環として、諸外国に海底ケーブルの有利な価格での提供を提案している。
*オーストラリアとニュージーランドはこれに対抗して海底ケーブル妨害への対処を立法化した。
・以上が、エドワード・ストリンガー前英空軍元帥の記事だ。これを読んで、アメリカの敏腕記者デービッド・サンガーがその著書で記したエピソードを思いだした(サンガー本、P136)。それによるとアメリカはオホーツク海にめぐらされたソ連の海底ケーブルに、傍受機を設置して、データを読みだしていたそうだ。それがバレたのはアメリカNSA(アメリカ国家安全保障局)の通信技術者が個人的な問題で破産寸前となり、ワシントンのソ連大使館に駆け込んだためであるという。
・こうしてみると、海底ケーブルをめぐるサイバー戦は、SFでなく、すでに現実の問題となっていることがわかる。衛星でインターネットをつなぐイーロン・マスクの先見性はたいしたものだ(スター・リンク)。さて日本としては、どうしたものだろうか。
(参考)
・Edward Stringer,"Putin knows that undersea cables are the west's Achilles heel",FT,2022.11.05
・山崎文明、「ヤバすぎる日本の海底ケーブル 台湾有事でネット接続全滅リスク",エコノミスト・オンライン、2022.01.30
・デービッド・サンガー、「サイバー完全兵器」、高取芳彦訳、朝日新聞出版、2019