仮想発電所(VPP)の時代
2022.12.17
・この冬、日本でも電力需給がひっ迫しそうで、役所からは、「電力需給ひっ迫(電力不足)への対応のお願い」などが出されている。たしかに省エネや節電はそれに対する有効策だが、世界では、別なやり方も進行中だ。
・EV(電気自動車)で有名なテスラは、ソフトで制御可能なバッテリーパック(パワーウォール)を家庭向けに発売している。ちなみに日本での価格は容量13.5kwhで110万円弱のようだ。
・これを使った仮想発電所(VPP,virtual power plant)の実験がアメリカで進行中だ。まずカリフォルニア州では、テスラは大電力会社のPG&Eと組んで実験を始めた。ちなみにカリフォルニア州では、稼働中のパワーパックは5万台に及ぶという。これをつなぎ合わせ、電力需要のピーク時(その判定は最も低効率な発電所が稼働開始したとき)に、パワーパックから電力網に電力を供給する。その規模は5万KWに達するという。
・この成功を受けて、テスラはテキサス州でも同様な実験が始まった。最初はテスト段階で北部テキサスで200台のパワーパックがこれに参加した。これがうまくいったため実験の範囲はテキサス州全体に広がった。
・日本でも宮古島でテスラは仮想発電所(VPP)を実験中で、同島でのパワーパック設置台数は300台を超えたようだ(株式会社宮古島未来エネルギーが設備を提供、設置はネクスシステムズが実施)。
・VPP(仮想発電所)に関しては、これ以外にも面白い展開がある。たとえば英国の技術者ニック・ウーレイ(Nick Woolley)が立ち上げたEv.energyは、ベンチャーキャピタルなどから1,280万ドルを調達した。また彼はフォルクスワーゲンのインキュベータ・プログラムからも援助を受けている。
・今年英国ではEV(電気自動車)が100万台以上売れたようだが、ニック・ウーレイはこれをネットワーク化することを考えた。つまりEVを連結してグリッド化し、電力網からの電力が不足するときには、EVネットから電力を供給し、逆に電力が余っているときには、EVネットへの充電を行うというものだ。つまりEVのネットワークがVPP(仮想発電所)を形成する。
・EV(電気自動車)の普及が本格化すれば、これは電力制御に大きな可能性を持つ。つまりEV普及は電力需給のスタイルを変える可能性がある。今のように発電側でピーク時の需要変動を受け止めるのではなく、VPP(仮想発電所)がその役割を果たすようになる。
・それにしてもこうした動きに対する日本の電力会社の動きは鈍そうだ。カリフォルニア州のPG&Eは日本でいえば東電や関電に相当する。こうしたところがテスラと組んでVPPによる需給調整の実験を始めれれば、日本のピークバランス対応手法も少しは変わるかもしれない。
(参考)
・Fred Lambert,"Tesla to create 'statewide market design pilot' virtual power plant in Texas",Electrek,Dec.12,2022
・Peter Campbell,"Ev.energy wants to be the 'Android' of electric car charging",FT,Nov.22,2022
・テスラ、「Powerwallによるバーチャルパワープラント『宮古島VPP』が日本最大級に」2022年8月26日
・日本経済新聞、「テスラ『仮想発電所』拡大」、2022.12.17