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宇宙産業民営化の時代

宇宙産業民営化の時代

  2023.01.08

・宇宙が最後の経済的フロンティアと言われて久しい。最近、イーロン・マスクのスペースX(2002年創設)やアマゾンの創始者ベゾスのブルーオリジン(2000年創設)などがその存在感を増している。スペースXは、ウクライナ戦争で、ロシアに破壊されない通信網を提供し、ウクライナ防御に役立てた。

 

・宇宙関連産業の売上高は2021年に4,690億ドル(約60兆円)に達したといわれる(Space Foundationによる)。ちなみに日本のGDPは530兆円(2021年)ほどだから、この売り上げは、その1割強に達する。さらにそれは2030年に1.4兆ドル(約180兆円)に達するとみられている(バンクオブアメリカ)。つまり宇宙事業は成長産業だ。

 

・この背景には、アメリカの宇宙事業民営化の流れがある。国の機関としてNASA(アメリカ航空宇宙局)が発足したのは1958年のことだ。その成果はアポロ計画(月への有人着陸に成功、1969年)などに彩られるが、その後シャトル計画(有人宇宙船)でつまずいた。それはコスト高だっただけでなく、事故にも見舞われた(発射時の爆発:1986年、大気圏再突入の空中分解:2003年)。

 

・こうしてアメリカは、宇宙事業の民営化にかじを切る。2004年に米国宇宙探査政策実施に関する大統領諮問委員会(President's Comission on Implementation of United Staes Space Exploration Policy)はNASAの機能を政府がどうしてもやらねばならない分野に限られるとした。こうしてシャトル計画は2011年に中止された。

 

・この民営化は成功したようだ。たとえば国際宇宙ステーションに1キログラムの荷物を運ぶコストは、イーロン・マスクの会社、スペースXでは8.9万ドルだが、これをNASAのがやれば3倍以上になったといわれる。

 

・以上がアメリカにおける宇宙産業民営化の大まかな流れだ。この民営化の動きでも、日本は周回遅れだ。日本の宇宙開発は、相変わらずのJAXA(宇宙航空研究開発機構)頼みで、しかも最近JAXAは打ち上げに失敗している(イプシロンロケット6号、2022年10月12日)。

 

・ここには2つの問題がある。第一は、日本に世界の流れを読める”宇宙ジャーナリスト”がいないことだろう。日本国民は相変わらず「はやぶさ」の映画などに感動している。それ自体はよいことかだが、アメリカではすでに宇宙産業の民営化が10年以上前から進んでいることが、日本では知らされない。宇宙ジャーナリスト不在の所以だ。

 

・第二の問題は、日本でIT企業がまともに育たなかったことだ。最初にあげたイーロン・マスクにしろアマゾンのジェフリー・ベゾスにしろ、IT長者だ。彼らは、儲けた金をリスクマネーとして宇宙産業に投じている。日本にはまともなIT産業がないので、こうした副次効果を期待できない。ここにもIT後進国日本の問題が浮き彫りにされている。

 

(参考)

・Rana Foroohar,"The new race could turn science fiction into reality",FT,2022.12.28

・Matthew Weinzierl,"Space,the Final Economic Frontier",J. of Economic Perspectives,Vol.32,No.2,Spring,2018                                                                                                                                                                                                

・Yahoo ニュース、「ロケット打ち上げ失敗→”すぐ破壊”なぜ?」、2022.11.13