H3ロケット失敗に思う
2023.03.11
・H3ロケットの打上が失敗した。まことに残念なことだ。しかし新聞の報道内容には、ちょっと違和感を覚えた。たとえば手元にある産経新聞のサブ見だしは、「電気系統か究明急ぐ」などとなっていて、技術的課題さえ解決できればうまくいくというニュアンスだ。本当にそうだろうか。
・2022年に世界でどれだけ人工衛星が打ち上げられたかは、「世界宇宙白書2022年版」(Jonathan McDowel氏の労作)を見れば明らかだ。
・2022年の衛星発射は全部で186基、国別にみると、アメリカが78基で4割強を占め、次が中国で64基で3割ロシアが21基で1割。つまりこの3か国で全体の9割弱を占めている。ちなみに日本は1基である。この186基のうち軌道に乗ったのは180基で成功率は97%となっている。
・軌道に乗った180基を主体別にみると、政府が82基、政府と契約した企業が21基、残りの83基が商用衛星となっている。これを見ても宇宙がビジネス空間になりつつあることがわかる。たとえばアメリカでみると、78基のうち61基がファルコン(Heavyを含む)となっている。ファルコンはご承知の通り、イーロン・マスク率いるスペースX社によるものだ。つまりマスクは電気自動車(EV)で世界をけん引しているだけではなく、宇宙空間でもすでに圧倒的な存在感を示している。
・マスクの率いるスペースX社は昨年61基の打ち上げに成功している。一介の民間企業が60基以上の打ち上げに成功しているのに、日本の公的機関(宇宙航空研究開発機構:JAXA)が打ち上げに失敗するのはなぜだろうか。これこそ、今回の打ち上げ失敗で議論すべき問題だ。スペースX社は、ご存じの通り、機体の再利用を可能にしたため、打ち上げコストが半減した。それに対抗するため、H3は従来機のH2Aのコスト半減を目指して(約50億円)開発された。現時点では、日本側はマスクに一敗地にまみれている。
・日本の宇宙開発の歴史は長い。2005年自民党の勉強会、「国家宇宙戦略立案懇話会」をきっかけに、2008年宇宙基本法を制定し予算を計上してきた。その額は2022年に5,219億円に達している(森、p25)。このお金はどこに消えたのか。
・こうしてみると、H3ロケットの失敗は単なる技術的問題ではなく、日本型技術革新戦略の行き詰まりを示すように思われる。日本の新聞記事が的を得ないのは、この点を深堀りしないからだ。それはおそらく記者の取材源が日本に限られるからだろう(政府、JAXA、三菱重工など)。つまり彼らは世界の大きな潮流(宇宙産業民営化の動き)を見ていない。
・ちょっと残念な言い方をすれば、ロケットの失敗、それに対する報道のなまぬるさ、こうしたことが日本の落陽を示しているようにも思える。
・ただ一つこの分野で救いがあるとすれば、ホンダジェットの成功だ。これは、小型ジェット機カテゴリーにおける出荷数で5年連続世界一を達成している(wikipediaによる)。しかしこれも会社をアメリカで開いたことが成功の理由と言えるかもしれない。
(参考)
・Jonathan McDowell,"Space Activities in 2022",Jan.17,2023
・産経新聞、「H3打ち上げ失敗」、2023.03.08
・Financial Times,"Mitsubishi/rockets:launch failure points to drain on resoures",March 08,2023
・森功、「国商」講談社、2022
・前間孝則、「ホンダジェット」、新潮文庫、2019