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「半導体戦争を読む」

「半導体戦争を読む」

  2023.04.22

・この本は昨年から気になっていて、だいぶ前に英文版(ペーパーバック)をアマゾンで注文したのだが、なかなか届かない。調べてみたらハードブック版がよく売れたので版元がペーパーブック版の出版を今年の秋に延ばしたためと分かった。

 

・というわけで、翻訳版の方が先に手に入った。本書はすでにテレビや書評で取り上げられているので、内容の紹介は省略して、筆者が大事なポイントだと思ったことだけに触れていく。

 

・まず評価できるのは、半導体をめぐる世界経済や政治の動きを幅広い角度でとらえていることだ。特に日本の半導体メーカーの興亡に関する記述はなかなか鋭く(第三部)、いまさらのようだが残念に思える。米国DARPA(国防高等研究計画局)に比べた日本の役所のビジョンのなさが浮き彫りにされている。

 

・本書に関して残念な点は、著者が政治学者であるため、技術の具体的な点に理解が及んでいない点だ。たとえばソニーを語るときにテープレコーダーを取り上げている(p81)。そこでの引用は「品質がよい」だけだ。しかしちょっと技術に詳しい人なら、これは録音をめぐる直流バイアスと交流バイアス方式の違いだということがわかる。たしか盛田氏は、交流バイアスの特許を取得していたはずだ。余談になるが、筆者は直流バイアスと交流バイアスの両方の録音機を使ったことがある。たしかに後者の利点は使ってみるとよくわかった。もう一点だけ同様な問題をあげると、クアルコムに関してだ(p198,p292)その創始者が実用化したCDMA(符号分割多元接続、code division multiple access)方式は、もともと軍事技術だったが、現在のケータイで使われており、画期的なイノベーションだ。本書での取り上げ方がちょっと表面すぎる感じがした。これはインテルの4004に関しても同様だが、これ以上の論議はやめておく。

 

・ただ本書の著者が政治学者であることによるメリットもある。それはこうした半導体時代における政治戦略を考えている点だ。それをWI(武器化した相互依存、weapoinzed interdependence)というが(P431,478)、これは現在のウクライナ戦などにおいても基本的な分析枠となっている。本書ではちょっとしか触れられていないが、半導体時代の政治学的基本視点として、頭に置いておく必要がある。

 

(参考)

・クリス・ミラー、「半導体戦争」、千葉敏生訳、ダイアモンド、2023

・Henry Farrell & Abraham L.Newman,"Weaponized Interdependence:how global networlks shape state coercion",in D.W.Drezner,H.Farrell,A.B.Newman ed,The Use and Abises of Weaponized Interdependence,Brookings Institution,2021