野口悠紀雄、「日銀の責任」を読む
2023.06.24
・野口氏の本は、いろいろと考えさせる点を含んでいる(購読をお勧めする)。
・彼が特に問題としているのは、2014年10月に行われた大幅な金融緩和政策の評価だ。
・この時日銀は、消費者物価の2%引き上げを目標として大幅金融緩和を行った。これは2022年初めまでに実現されていない(その後消費者物価は高騰したが、これは世界インフレと円安による)。したがって異次元緩和策は失敗と言ってよい。日銀はなぜこの政策がうまくいかなかったかを分析し説明する責任がある(野口、p280)。
・この緩和策によって日銀は、アベノミクスを支える超金融緩和政策を取ることとなった。当時の議事録をみると、評決は大きく分かれ、5対4で辛うじてこの政策が決定されている。ちなみにこの政策に賛成したのは、黒田総裁、岩田副総裁、中曾副総裁、宮尾審議委員、白井審議委員の5人である。反対は森本審議委員、石田審議委員、佐藤審議委員、木内委員の4人。
・日銀の迷走に関する野口氏の本を縦糸とすれば、それに色を添える横糸が、相場英雄の小説「EXIT」だ。このタイトルは、「政府の言いなりになって日銀が借金を肩代わりし、金利という概念が消えた国、その先行きがどうなるか。・・・ノー・イグジットだ」(相場、p139)からとられたと思う。そのさきは、相場氏によれば「アルゼンチン」(相場、p121)ということになる。
・参考のために付け加えておけば、相場氏は時事通信社で日銀担当の経験があり、当時の事情に詳しい。
・いずれにせよ、野口氏の言うように、日銀はこの緩和政策に対する総括を行う必要があるだろう。ちなみにそれに反対した4氏の出身は、森本氏(東京電力)、石田氏(住友銀行)、佐藤氏(モルガン・スタンレー証券)、木内委員(野村総研)と民間企業である。彼らは日本経済に対する現実感覚があったと言えよう。蛇足を付け加えれば、これに賛成した宮尾、白井の両氏は学者出身である。
(参考)
・野口悠紀雄、「日銀の責任」PHP新書、2023年
・日本銀行、「『量的・質的金融緩和』の拡大」、2014年10月31日
・相場英雄、「EXIT」、日経BP、2021年