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山田太一の時代感覚

山田太一の時代感覚

  2023.07.29

・山田太一といえば、1970年代から1980年代にかけて活躍した日本の代表的なシナリオライターだ。

 

・最近代表作の一つ、「男たちの旅路」(1976-1979)がNHKBSで再放送された。このドラマは鶴田浩二が特攻帰りの戦前世代、水谷豊が戦後高度成長世代を代表して、それぞれの価値観のぶつけ合いいがテーマだ。特に面白かったのは第2部第2話の「冬の樹」で、鶴田達ガードマンがロックコンサートの警備にあたるが、さばききれず、殺到したファンの一人(竹井みどり)が軽い脳震盪を起こす。鶴田達は彼女を介抱の上、自宅に送るが、父親(滝田祐介)が警備の不備を一方的に非難し、その結果鶴田は停職処分を受ける。鶴田は父親に、「処分に不服はないが、あなたは子供ときちんと向き合っていないのではないか。それが親子関係に問題を引き起こしているのではないか」と問いかけ、事態はさらに複雑化する。娘(竹井みどり)はむしろ鶴田に共感を覚え、彼のアパートを訪ね、二人の間には世代を超えた友情が生まれる。そこには戦前の特攻世代(第一世代)が、戦後の経済成長世代(第二世代)を飛び越えて、若者世代(第三世代)と理解可能性を持つことが示唆されている。

 

・このドラマの重要な脇役が都電荒川線だ。鶴田が仕事帰りに、肩を落として、線路際を安アパートに帰る後姿を、都電のライトが照らすシーンは印象的だ。この都電はこのシリーズの主役(第2話、「路面電車」)にもなっている。

 

・話は飛ぶが、山田太一のドラマで、筆者の好みは、「早春のスケッチブック」(1983)だ。これは横浜のサラリーマン一家の物語で、一家は4人(父、母、長男、長女)の構成だ。ただし普通の家族と違うのは、父と長女、母と長男がそれぞれ別の家族だったのが、再婚して一つの家族になったことだ。

 

・長男(和彦)は横浜の名門希望が丘高校3年で、一ツ橋を目指して共通一次に臨もうとしている。

 

・その大事な時に、和彦の前に実の父親(沢田)が現れる。彼は写真家で本も出しているが、体を壊して、写真家業を廃業している。沢田は古いお屋敷の管理人をしており、そこに和彦を呼びつける。そして息子に、「そうやっていい子になって、受験勉強に励んで、良い学校に入り、そして良い会社に入って、つつがない人生を送る。それに何の意味があるか」を問いかける。

 

・この親子問答は沢田が死ぬ直前まで続くが、おかげで 和彦は受験に失敗し、無名の私立に進むことになる。

 

・しかし沢田の和彦に対するこの問いかけは、今の時代にこそ”問われるべき”ものだろう。小学校から塾に行き、名門私立中学に入り、付属高校を経て東大などに入る。そして官僚や大企業の社員になって、つつがなく人生を送る。そしてそれに外れた人々に対し冷たい目を向ける。

 

・こうした人々が、今の指導層になっていることが、日本の長期的停滞の真の原因だと思う。「男たちの旅路」は素敵だったが、「早春のスケッチブック」も再放送してもらいたいと思う。