· 

AIによる気象予測

AIによる気象予測

    2023.11.18

・昔から、食中毒になりたくなければ、「気象台、気象台、気象台」と唱えればよいという笑い話があるが、それほど気象予測は難しい。

 

・これでいつも引き合いに出されるのが、英国BBCの気象キャスターだったミカエル・フィッシュ氏の大外れだ。彼は1987年に英国を襲ったハリケーンを予測しそこなって、有名になった(失礼!)。いまでも引用されるのは、その人柄がとても純朴に見えるからだ。ちなみにYuoTubeでは、その時の気象予報をみることができる。

 

・気象予測には、基本的な難点がある。英国の数学者リチャードソン(Lewis Richardson)が気象予測の基本モデルを立ててから(1922年)、コンピュータの発達によって気象予測は大きく進化した。フォン・ノイマン(von Neumann)やグレゴリー・チャーニー(Gregory Charney)のこの分野への貢献は大きい。しかし1960年代にMITの気象学者ロレンツが、基本的に予測が困難な点を見出してから、今でもスパコンを使ってもせいぜい2週間程度しか予測できないことがわかっている(参考文献3))。

 

・今回はグーグルのGraphCastというAIが気象予測に挑戦し、ヨーロッパ中期予報センター(ECMWF,European Center for Medium-range Weather Forecast)のスパコンによる予測を若干上回る結果を出した。もちろんこのAIのトレーニングにはECMWFがこれまで蓄えてきた実績データが用いられている(1979-2017年)。

 

・これは大変なことだ。つまり一つの部屋を占領するほどのスパコンを使わずに、端末で中型の機械学習(ML)AIを使えば、気象予測ができる時代になったからだ(計算にはグーグルクラウドのTPUv4を使用)。ちなみにGraphCastのパラメータ数は約3,670万と言われており、それほど大規模ではない。

 

・これによって気象予測に要するエネルギー消費は、従来型に比べ1000分の1になったといわれる(参考文献1))。

 

・ここから言えるのは次のことだろう。

 

 ①AIを使えば、安価で素早く気象予測ができる時代になった。ただAIの訓練には、これまで気象関係者が蓄えてきた過去の気象データが不可欠だ。

 

 ②しかしながらロレンツの限界(初期値の変動で結果が大きく変わってしまうので長期予測は困難)は依然として存在する。

 

 ③エネルギー消費の観点から言えば、AIを使うことで、とてつもない省エネが達成される。

 

・当方もe予測で経済予測に携わる身なので、分野は違えど、予測には変わりない。サイエンスに掲載された気象予測の論文は興味深く読むことができた。

 

(参考)

1)Clive Cookson,""AI outperforms conventional weather forecasting methods for the first time",FT,Nov.15.2023

2)Remi Lam,Alvaro Sanches-Gonzalez,Peter Battaglia etal."Learning skillful medium-range global weather forecasting",Science,14,Nov.2023

3)Lorenz E.N. ”Climatic Determinism”, Meteorological Monographs, Feb.1968

4)Andrew Blum,"The weather forecast may show AI storms ahead",FT,Nov.17,2023

5)関山剛、「大気科学におけるAIの利用方法」、日本気象協会2023年度夏期大学。