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迫りくる人口減少世界

迫りくる人口減少世界

  2024.04.21

 

・今や世界は人口減少局面に向かっているようだ。合計特殊出生率( Total fertility rate、略称: TFR)は、一人の女性が一生の間に出産する子供の人数のことだ。TFRが人口置換水準(Replacement-level fertility、2.07)を下回ると、その国及び地域の次世代の人口が自然減することになる(ウィキペディアによる)。

 

・この事態が現実味を帯び始めている。従来国連経済社会局(DESA)人口部門(Population Division)予測では、世界人口の伸びが止まるのは2056年とされていた(2022年報告)。しかしStein EmilVallseらの研究では、それはもっと早く2040年に生じるそうだ。さらにワシントン大学保健指標評価研究所(IHME)のクリストファー・ミュレー(Christopher Murray)教授によれば、それは2030年にも起こりえるという(参考文献[1])。

 

・これは日本にとっても他人事ではない。人口減少が目前に迫っているからだ。この意味で参考になるのはフィンランドの動向だ(参考文献[2])。20年前のフィンランドは人口に関してうまくいっているようだった。出生率は上昇し、女性の労働力参加率は高かった。これはノルディック・モデルと呼ばれていたが、その背景には高水準の妊婦保護、充実した育児休暇や就学前までの保育制度などがあった。

 

・ところが2010年以来フィンランドの出生率は3分の1に低下した。同国人口研究所の研究主任アンナ・ロトキルヒ氏(Anna Rotkirch)によると、「問題は、誰もが何が起こっているかわからないことだ」。つまり通常考えられるように、経済的要因(金がないので、子供が持てない)ではなく文化的、心理的、生物学的認知(biologocal cognitive)によるものだという。つまりミレニアム世代(1980年代前半から90年代半ばまでに生まれた世代)にとっては子供を持つことを視野に入れていない。彼らは、良い生活を送っており(パートナーを持ち、親から援助を受け、職を持ち、一人ではない)、子供をたくさん持ちたいと思わない。

 

・つまりミレニアム世代にとって、「不確実性減少理論(Uncertainty Reduction Theory)は、むしろ子供を持たないことなのだ。またそれには、最近のウクライナ情勢も寄与しているという。

 

・さて日本の場合はどうだろう。日本経済の将来はあまり明るくない。また政治制度も旧態依然で制度疲労に陥っている。こうした状況では日本の人口が純減するのは予想より早いかもしれない。一つの可能性は移民の増加だが、その場合には彼らの人権を十分尊重することが肝心だ。そうでないと、手ひどいしっぺ返しを受けるだろう。

 

(参考文献)

1)Tyler Santora,"Population tipping point could arrive by 2030",Science.2,Apr.2024

2)Henry Mance,"Birth rates are falling in the Nordics.Are family-friendry policies no longer enough?",FT,Jan.30,2024

3)Stein EmilVallse etal,,"Fertility,migration,and population scenarios for 195 countries and territories from 2017 to 2100:a forecasting analysis for the Global Burden of Disease Study",Lancet,Vol.396,Oct.17,2020

・根本かおる、「難民鎖国ニッポンのゆくえ」、ポプラ社、2017