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シンガポール航空の乱気流巻き込まれ事件

シンガポール航空の乱気流巻き込まれ事件

 2024.06.02

・先月末(5月20日)、シンガポール航空のロンドン発シンガポール行きの便が乱気流に巻き込まれ、死者一人を含め、70人以上が負傷した。同機は1,800メートルも落下したといわれている(富士山の高さの約半分)。

 

・乱気流の存在は、航空会社ではよく知られている。たとえば離着陸時の地上からの強風、嵐がもたらす乱気流(航空機はこれを避けて飛ぶ)、山岳地帯や大気中のジェット気流近傍でも乱気流が発生する。

 

・航空機の機長は、航路選定にあたって、乱気流予測(turbulence projections)を利用する。また飛行中はレーダーで嵐雲を見つけ、それを避けようとする。しかしCAT(clear air turbulence:晴天乱流)は、こうした対策では見つけられない。Lidarを使えば、CATは発見可能だが、その装置は高価でかつ重いので、なかなか飛行機に採用されない。

 

・厄介なのは、温暖化現象がこの現象の頻度を高めつつあることだ。それは温暖化によってジェット気流の勢いが強まるからだそうだ。北大西洋において、1970年から2020年にかけて、強いCAT(晴天乱流)の発生頻度は、55%増えた(文献[2])。つまり今回のシンガポール航空事故もそうした乱流に巻き込まれた可能性が高い。

 

・文献[2]には、CATの地理的分布が示されている。これを見ると日本近辺でもCATはかなりの頻度で生じている。つまりシンガポール航空が体験した事故は他人ごとではない。

 

・飛行機に乗る時には、「シートベルト着用サイン」が消えても、緩くシートベルトを締めておいた方がよさそうだ。

 

(参考)

[1]Carissa Wong,"Singapole Airline turbulence:why climate change is making flights rougher",Nature,22,May,2024

[2]Mark Prosser,Paul Williams etal,"Evidence for Large Clear-Air Turbulence Over the Past Four Dewcades",Research Letter,doi.org/10.1029/2023GL10384,08 June,2023

[3]BBCニュース、「シンガポール航空の乱気流事故」,20254.05.24